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ブリキの太鼓 第二部

"このとき、彼は首にかけたブリキをはずし、もう、『なすべきか、なさざるべきか?』などと言わず、『こうしなければならぬ!』と言ったがと思うと(中略)太鼓を投じた。"1959年発刊の本書は戦後ドイツ文学における重要作。"3歳で成長を止めた少年"によるシニカルな傍観物語、第二部。

個人的にはトラウマ的な描写のあった一部に続き、恐る恐るといった感じで二部を手にとってみました。

さて、そんな本書は自由都市ダンツィヒに第二次大戦の不穏な足跡がひたひたと近づく気配があった一部と比較すると、ドイツの敗戦、ソ連軍の占領下によって、主人公にして前線慰問団に参加するオスカルの周りには一部の母の死に加えて、今度は母の情夫ヤン、料理上手な父マツェラート、永遠の美女ロスヴェータと死が【堆く『ドラマチックに』積み重なっていく】中。ついに『守ってもらう存在』から自立へと、成長を始めることを決意するまでが描かれているわけですが。

やはり、一部に較べて更に【陰惨な描写こそ増える】とはいえ、物語の展開がスピードアップ、また前線慰問団にオスカルが参加した事で、ダンツィヒの外も描かれた事で世界観もスケールアップと、小説として【単純に面白さが増した】感じがあって、また加えて映画版のラストにもなっている(らしい)【オスカルの成長=破壊の後からの再生】といった希望溢れる終わり方をしている事もあり、最後まで楽しく読む事ができました。

一方で、一部同様。本書の語り部はオスカルの『中の人』という多重的『信頼できない語り手』形式になっている為、いったん登場人物の死であったりを『ドラマチックに』オスカルが描いた後に、中の人"ぼく"が補足したり『真実を告白する』事で差異であったり【余白的な部分が存在している】ことを仄めかしているわけですが。この辺りも戦争という悲惨な現実を描くにあたり、技法的に巧みだと感じました。

戦後ドイツ文学の重要作として、また一部に続き様々な話題を引き起こした映画の原作としてもオススメ。

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