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ブリキの太鼓 第一部

"そのとおり、ぼくは精神科病院の住人である。ぼくの看護人はぼくを見張っていて、ほとんど眼をはなすことがない。ドアに覗き窓がついているのだ。"1959年発刊の本書は『ダンツィヒ三部作』の最初を飾る、戦後ドイツ文学における重要作。映画化もされた"3歳で成長を止めた少年"によるシニカルな傍観物語、第一部。

個人的には長編小説のため積読のままでしたが、ようやく手にとりました。

さて、そんな本書は1954年、精神病院の住人である30歳になった『身体は3歳の子供、頭は大人』オスカルが、看護人に自らの半生を語るという形で物語は始まり、第一部である本書は1899年の祖母のジャガイモ畑でのシュールな4枚のスカートをはいたままの妊娠に始まり、実母アグネスの誕生、そして1924年のオスカル誕生に至るも胎児の時に父親に『商売を継ぐ事を期待され』一方で『3歳になったらブリキの太鼓を買い与えよう』と言われた事で、商売を継ぐ事は拒否、一方で太鼓は欲しいと【3歳で自ら成長を止めた】オスカルが、覚醒して身につけた超音波でガラスを自由に破壊する能力と、太鼓で人々を魅了する能力で様々な問題を引き起こしていくのですが。

まあ『身体は子供、頭は大人』といえば、ついに100巻を超えた人気シリーズ『名探偵コナン』が、また本書ではオスカルの『中の人』として【大人が語り部になっている】部分からは異世界転生もの。例えば『幼女戦記』や『無職転生』といった作品が浮かぶのですが。本書の舞台にして、かって存在したドイツ人とポーランド人、そして少数民族が共生していた『自由都市ダンツィヒ』でオスカルの瞳に映る大人の世界はナチスドイツの足音響く不吉さに満ちていて【寓話的でトラウマ的なシーンが続く】のに驚かされる(ジュール・ルナール『にんじん』を彷彿させる"例のスープ"や"馬のクビ使った鰻獲り"とか。。)

一方で、第二次大戦時に同じ枢軸国側として連合国側に敗戦、同じく戦後総括や"犯人探し"的な必要に迫られた国の人間としては、本書の主人公を『成長しない少年』として創作し、権力者たちを描くのではなく、あくまで【一般市民の大戦時の混乱を描写する】というのは巧みだと感じ、どこかアゴタ・クリストフの『悪童日記』を思いださせる第一部の読後感でした。

戦後ドイツ文学の重要作として、また様々な話題を引き起こした映画の原作としてもオススメ。

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