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能・文楽・歌舞伎

"多分、アリストテレスは、身分の低い人の不幸はみじめであっても、悲劇的ではないという意見だったでしょうが、近松はどの人にも悲劇の可能性があると信じていたようです。"2001年発刊の本書は日本文学・文化研究の第一人者であった著者による能・文楽・歌舞伎『日本伝統演劇』解説名著。

⁡個人的には、著者の代表作である『日本文学史』シリーズには、主宰している読書会で理解を深めるためにとても助けられたのですが。本書については未読だったので手にとりました。

⁡さて、そんな本書は子供の頃から演劇好きで、留学時には狂言も学んだ著者が【英語圏に向けて発表した内容】を吉田健一、松宮史朗がそれぞれ丁寧に翻訳したもので。全三部構成で、第一部の『能(狂言)』が最も手厚く約200ページ、第二部の『文楽(浄瑠璃)』が約130ページ。そして第三部の『歌舞伎と日本演劇』は約70ページの三章仕立てで、歌舞伎自体の紹介は約20ページ。残り二章は大学での講演を収録する形でこれまで』を『日本演劇』として総括する内容になっているのですが。

まず、前述した読書会とも別に毎月美術史を人前で話す機会がある必然として。能、文楽、歌舞伎についてはそれぞれ【ある程度は知ってます】が『日本文学史』シリーズと同じく、西洋人として当然に『文学の延長として演劇を捉える】理解を超えて、また(各分野の方からは異論はあるかもしれませんが)『日本演劇』として豊富な資料から【独自に考察し、俯瞰的な総括を加えている】本書の内容は全体的に【流れがとてもわかりやすく】勉強になりました。

また、少なくとも本書からは『能(狂言)』にやはり最も熱量が感じられる気がしましたが。世阿弥の『風姿花伝』も既読の私としては【世阿弥(と足利義満)の功績の大きさ】そして豊臣秀吉時代から徳川江戸時代になる中での変質【エンタメ→儀式化=スロー化】はたまた明治期において西洋人を迎えるために【岩倉具視によりオペラ代わりに再評価】といった解説などは私にとっても新鮮で、大いに楽しませていただきました。

⁡能(狂言)が好きな方はもちろん、文楽(浄瑠璃)や歌舞伎を含めて文学的、俯瞰的に【日本演劇】を捉えたい方にオススメ。

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