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怒りの葡萄

"飢えたひとびとの目には、つのる怒りがあった。ひとびとの心の奥底で、憤りのぶどうがあふれんばかりに、たわわに実り、ずっしりと育って、刈り収めの季を迎えようとしていた"1939年発刊の本書は『出エジプト記』をモチーフに故郷を追われた一家の逆境と不屈の人間像を描き、大きな社会的反響を巻き起こした一大叙事詩。

個人的にはエミリオ・エステベス監督の映画『パブリック 図書館の奇跡』で主役の図書館員が本書の一節を引用していることから気になって手にとりました。

さて、そんな本書は世界恐慌と重なる1930年代、開墾によって発生した砂嵐、資本家による機械化で所有地が耕作不能となった一家が、故郷のオクラハマを追われて流民となって仕事を求めてカリフォルニアを目指し辿りつくも【そこでも差別や搾取を受け続ける】のですが。

まず印象に残るのは、冒頭からの仮釈放された主人公トムが元説教師のケイシーや家族と再会し、カリフォルニアを目指すまでからも存分に伝わってくる【細部まで写実的な文章力(料理の描写、車の修理の様子は特に秀逸)とよく練られた構成】でしょうか。おかげで物語としては割とシンプルだとしても、頼もしいトム(と母親)を中心に家族たちが成長しながら支え合う姿が実在の人物たちのようなリアリティがあって、ひきこまれました。

また、本書が著者にとってノーベル賞受賞の主な理由になる一方で、共産主義(社会主義)文学として事実を捻じ曲げてると非難されて、作中舞台となったオクラハマ州、カリフォルニア州の図書館で禁書扱いされたのをきっかけとして、現在の【読者の知的自由を守る権利】"図書館の権利宣言"が生まれたことを知ったのですが。こちらもこうした歴史の積み重ねがあって、今の『民主主義の最後の砦、図書館』(『パブリック 図書館の奇跡』より)になっている有り難さをしみじみと考えたり。

聖書を下敷きにしたアメリカ文学の古典的名著として、またアカデミー賞受賞映画の原作として。あるいは魅力的な食事描写のある作品を探す人にもオススメ。


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