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青白い炎

"今はわが読者の手に渡っている、この詩へのわたしの註釈は、そういったこだまや炎のさざ波や、青白い燐光を発する様々な暗示や、わたしがこうむった多くの潜在意識下における恩義のすべてを選び出す企てを表したものなのである"1962年発刊の本書は、宇多田ヒカルの愛読書としてやブレードランナー2049での引用でも知られる999行の架空詩集、その2倍以上の註釈で構成された実験小説。

個人的には技巧的な作風で知られる著者の『ロリータ』に続く2冊目として、また英語作品の代表作の一つとして手にとりました。

さて、そんな本書は前述した通りに、ジョン・ジョイドという架空のアメリカ詩人の連作長編詩『青白い本書』の全文と、隣近所に引っ越してきた男色家にして亡命学者のチャールズ・キンボートの【誇大妄想じみた註釈】で構成されているのですが。まず圧倒されるのは【複雑かつユーモアに溢れた語彙の豊かさ】でしょうか。勝手にタイトルから重々しい内容を連想していたので意表をつかれる印象でした。(同じくエゴイスティックな主人公が登場する『ロリータ』と違い、こっちは笑えます)

また、本書は典型的な『信頼できない語り手』変質的なストーカー、キンボートの滅茶苦茶とも言える註釈を通して【読書とは誤植や誤読の連続】であることを評論家によっては全体テーマと捉えているようですが(そういった意味ではブレードランナー2049での引用は全く正しい!)『噴水(fountain)と山(mountain』『シャーロック・ホームズとアルセーヌ・ルパン』といった散りばめられた各所、また登場人物の設定自体も疑える本書、ミステリー的にもとても楽しめます。

複雑なプロットを持つ小説好きな誰かへ、また少女性愛『ロリータ』ともまた違う著者の魅力を感じたい方にもオススメ。

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