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アドルフ

"愛し合う二つの心のあいだに一つでも秘密が介在するようになったら、またひとりがたとい一つでも考えを相手に隠す気になったら、もうそれっきり魅力は破れ、幸福はこぼたれてしまう"1816年発刊の本書は、自伝的恋愛小説にして、男性の利己主義を冷たく鋭く分析した近代心理小説の先駆作。

個人的にはラディゲの『肉体の悪魔』とよく比較される本書。積読のままになってしまっていたことから、今回ようやく手にとりました。

さて、そんな約150ページほどの本書は、青年アドルフの手記という形式をとって、伯爵の愛人である年上の女性エレノールに恋をし、それほどの障害なく早々に愛を勝ち取るものの(前半約40ページ)その後はずっと、成就してしまった途端に【自分を愛しすぎる彼女に重苦しさを覚えて】倦怠と惰性へと心境が身勝手に変化していくのを徹底的に描いているわけですが。

まず最初に思ったのは、語り手たる主人公のアドルフに共感できるかどうかで好き嫌いがきっぱり分かれるのでは?と思いました。本書では風景描写などは最低限に、とにかくアドルフの自由になりたい!束縛されたくない!と、問題を【一貫して先送りにし続ける現実逃避的な姿】がくどくどと描写されていくのですが。心情自体は確かに現在でも通じるリアリティ、普遍的な魅力があるとは言え、共感できないとなかなかにキツイと思われるのです。(私はちょっと共感できませんでした。。)

それでも。また物語自体もベタで、また男性に都合よくヒロインが死を迎えて終わるとはいえ。本書の憂鬱かつ【徹底した心理描写の精密さ】には確かに唸らされる部分があり、読み進めながら、何故かアンナ・カレーニナのアンナを思い出し、本書のような物語を下敷きにして、都合よく死ぬヒロインから、自らの意思で死を選ぶヒロイン。といった時代と共に変化が生まれていったのかな。とか想像したりしました。

心理描写の優れた小説を探す人、また成就した後の恋愛ね倦怠や身勝手さに興味ある人にも?オススメ。

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