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犯罪

"その手紙は次の言葉ではじまります。『物事は込み入っていることが多い。罪もそういうもののひとつだ』(中略)この本はそういう人たちと、そういう人たちの物語を書いたものです。"2009年発刊の本書は著者の処女作にして自身の事務所で取り扱った実際の事件をモデルに書き上げ、世界で絶賛された他、日本でも2012年本屋大賞『翻訳小説部門』第1位にも輝いた連作短編集。

個人的にはシンプルな表題、美しい表紙に惹かれて。初めて著者の本を手にとりました。

さて、そんな本書は一生愛し続けると誓った妻を斧でバラバラにして殺めた『フェーナ氏』から始まり【調書の様に無駄なく簡潔で読みやすく、一方でどこか緊張感のある独特な文体で】1編20ページ前後の様々な『世界の不条理に翻弄される犯罪者達』を描いた短編が11編収録されているわけですが。

やはりまず【著者自身がベテランの刑事弁護士】(さらには語り手が作者自身を連想させる『私』)加えて本屋大賞以外にも『このミステリーがすごい!」』などにもランクインするなど一応『ミステリ小説』に分類されているとはいえ、当然に予想される"あっと驚く犯人当て、謎解き"などは収録作にはなく、むしろ謎というか"余韻を残したままに終わる作品が多い"ことから【どこまでが現実に起きた事件からなんだろう?】と、現実とフィクションの間で宙ぶらりんにされていくような読書感覚が、しかし不安や不快感には繋がらず、本書の大きな魅力になっているように感じました。

また収録の11編中では(どれも魅力的ですが)周囲からも尊敬されていた紳士が何故?とやはり思ってしまう『フェーナー氏』映像的、視覚的な美しさを感じる悲劇『チェロ』本書の中では一番の痛快作?と感じる『ハリネズミ』"愛ゆえの死体損壊なのです"がささる、寄り添う二人の物語『幸運』あたりが個人的には好みでした。

単純さ、わかりやすさを求める風潮から白や黒と【すぐにどちらかに決めつける】様な時代に『事実は小説より奇なり』ではありませんが、そして、あくまで『小説』とは言え、語り尽くさずに自由にイメージを膨らまさせてくれる体験をさせてくれる本書。本当に素敵ですね。

単純な謎解きや犯人当てではなく、罪をおかした人の複雑な心理状態に興味を覚える人。読みやすくも洗練された文体(もちろん訳者の見事な翻訳にも)に興味を感じる人にもオススメ。

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