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イワン・イリッチの死

"『ところで死は?どこにいるのだ?』古くから馴染みになっている死の恐怖をさがしたが、見つからなかった。いったいどこにいるのだ?死とはなんだ?恐怖はまるでなかった。なぜなら、死がなかったからである。死の代わりに光があった。"1886年発刊の本書は著者後期の中編傑作として人気の一冊。

個人的には、メメント・モリではないけれど。でも有名無名に問わず死を許容せざるを得ない今こそ読むべき一冊ではないかと思い手にとりました。

そんな本書は、タイトル通りにイワン・イリッチという一官吏の訃報に知人たちが接するところから始まり【時系列的には逆算するかのように】イワン・イリッチの結婚や世俗的な成功、そして、そこから不治の病にかかってからの肉体や精神、周囲の人たちとの関係性の変化、そして訪れる死を約100ページの中編として迫力もって描いているのですが。

死など無縁と思っているだろう多くの若い世代にはあまり響かないかもしれませんが【私自身が死へと向かう人生の午後世代】であること。また家族も含めた【親しい人たちの終わりに立ち会う機会が増えつつある】ことから、自分がイワン・イリッチだったら?あるいはイワン・イリッチの家族だったら?と本書は当事者と関係者。2つの視点でかなり考えさせられる読後感でした。

また、本書自体は定められた死へ向かう。そんな実存主義の先駆け的な一冊とも言われているようですが。全体としては読みやすくも元気な時と病気になってから『虚飾溢れる世俗世界』と『真実の精神世界』を【対比させた構成】そして生前から有名であり、死後も大きく報道される著名人とは違い、イワン・イリッチと同じく多くは寂しく死ぬであろう人たちにも【最終的には救いを与えている】のが印象に残りました。

遅かれ早かれ訪れる死について。立ち止まって考えたい誰かへ。また読みやすくも迫力ある文章に触れたい人にもオススメ。

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