見出し画像

山椒魚戦争

"いつか、第三紀の大山椒魚の痕跡が人間の祖先の化石と誤ってみなされたことが、実際にあったからなのです。ですから、あらゆる生きもののなかで、山椒魚には、私たちの姿として登場する特別の権利が、歴史的にあるのです。"1935年発表の本書はチェコの国民的作家によるナチズム批判、そして全体主義の台頭や冷戦を予見している普遍的な終末テーマの古典的SF傑作。

個人的には、難民問題や人口問題、Black Lives Matterといった社会的な権利運動やAIやロボットが日常的になりつつある2020年現在の【今こそ読み返すべき一冊】ではないかと手にとりました。

さて、そんな『労働』を意味するチェコ語からロボットという言葉を作ったことでも知られる著者による本書は先に未読な方に言うと、ユーモアと風刺、工夫に満ちた【文句なしに面白い群像劇的な名作】で。赤道直下の島で見つかった大山椒魚が【終始人間都合で労働を肩代わりさせられ、また文明を発展させられる内に】コミュニケーションのすれ違いから、遂には人間との戦争に突入するラストまでを3部構成、約400ページで描ききっていて圧倒されます。

また、一応『SF』と分類される本書ですが。テーマとして同じく著者の『R・U・N』のロボットと同じく【人間自身の傲慢さで、自ら創り出したモノやシステムに滅ぼされる】といった設定はSF的だと仮にしても、ガジェット的な細部や世界観はさほどSFじみてるわけではないので。普段SFを苦手とする人にも、当時において極めて政治色が強く、当然に発禁処分や一部削除が行われた本書をまた【全体主義傾向が強くなっている今こそ】手にとってほしいと思いました。

普遍的な傑作を探している誰か、あるいは進行形の社会的な問題を考えたい人へ、課題図書として誰かと話し合うキッカケとしてオススメです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?