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小僧の神様 他10篇

"彼は悲しい時、苦しい時に必ず『あの客』を思った。それは思うだけである慰めになった。彼はいつかはまた『あの客』が思わぬ恵みを持って自分の前に現われて来る事を信じていた。"1928年発表の本書は"小説の神様"写実の名手であった著者による自選11篇を収めた短編集。

個人的には最近読んだ小津安二郎監督や芥川龍之介が著者を絶賛していた事から興味を持って手にとりました。

さて、そんな本書は代表作とも言える表題作、そして『城崎にて』『清兵衛と瓢箪』を含めた計11作が著者自身がセレクト、そして【どのようなきっかけで書いたか】の簡単な説明も含めて収録されているわけですが。

小津安二郎監督が心酔するのもよくわかる、例えば『城崎にて』著者自身が山手線の電車にはねられた(!)療養も兼ねて三週間滞在した城崎温泉で目撃した、ねずみの死、蜂の死、いもりの死を流れるような文体でつらつらと描くも、それでいて読んでいるだけで【自然に脳裏に情景がありありと浮かび】まるでカメラが被写体を追っていくような映像的な作風だな。と思いました。

また物語自体、こちらは『小僧の神様』とか、どこか【余韻や余白を残す終わり方】の作品が多く。すべてを隅から隅までは語り尽くさないといった感じに『失われた日本の情緒、日本人の品性』といった懐かしさを覚えました。当時の作家たちが理想としたのも何となくですが、わかる気がします。


無駄を省いた写実的な文章を自分の参考にしたい作家志望の方や、古き良き日本を懐かしく思い出したい方にもオススメ。

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