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騙し絵の牙

"『あいつは騙し絵みたいなもんや』『騙し絵?』『華やかな美人やと思ってても、視点を変えて見たら、牙を剥く悪魔が浮かび上がる、みたいな』"2019年発刊の本書は著者が俳優・大泉洋を主人公として想定し、出版界と大泉を4年間徹底取材して書き上げた、出版、メディア産業の今を描いたエンタメ小説。

個人的には映画化作品がとても面白かったので、原作である本書も手にとってみました。

さて、そんな本書は大泉洋をモデルにした主人公、出版社大手の薫風社でカルチャー雑誌トリニティ編集長をつとめる速水が廃刊危機の雑誌を存続させる黒字化を目指して大物作家への連載依頼や映像化、他業界とのタイアップなどの新企画を探っていくのですが。。

映画の方が当然に速水を演じる大泉洋が主演とはいえ、部下の熱血編集者、高野恵を演じる松岡茉優が実質的な語り部役として物語が進行していくのに対し、速水は遠景というか終始謎めいたままだったのですが。比較して、本書では立場が逆というか【速水がよりクローズアップされ生い立ちや家族問題まで掘り下げて描かれている】のが印象的で『雑誌存続をかけて奮闘する』という流れこそ同じですが、異なるラストも含めて【合わせ鏡の様に】楽しませていただきました。

また、映画の方をやはり先に鑑賞したからでしょうか。物語時代は割と単線的な印象なのですが。同じく出版業界をブラックなネタにした筒井康隆の『大いなる助走』(こちらも映画化されていたんだ!)のその先ともいえる出版業界の状態を元新聞記者として【徹底取材して完成させた】と著者自らが述べている様に、某カリスマ書店員が出てきたり、Amazonモデルの会社が出てきたりと割と【リアリティを感じる登場人物同士のやりとり】がとても面白かった。

大泉洋ファンはもちろん、出版業界に興味ある人、職業ものが好きな人にオススメ。

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