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自省録

"働け、みじめな者としてではなく、人に憐まれたり感心されたりしたい者としてでもなく働け。ただ一言を志せ、社会的理念の命ずるがままにあるいは行動し、あるいは行動せぬことを。"1956年国内紹介の本書は、プラトンの理想とした『哲人皇帝』による人生について考察した普遍的名著。

個人的には西洋の思想家や政治家たちが【古代精神のもっとも高貴な倫理的産物】と賞賛し、座右の書に挙げる本書。興味をもって手にとりました。

さて、そんな本書はローマ帝国の全盛期、五賢帝の最後のローマ皇帝として、読書と瞑想にひたることか何より好きな内向的な性格にも関わらず、生涯を意に反して政務や戦争に忙殺された著者が、人に読ませるつもりではなく、折にふれて心に浮かんだ感慨や思想【自らと対話するような自省自戒の言葉】が第12巻にわたって、構成も文章も整わず収録されているわけですが。

後書きでも述べられている通り、キリスト教的価値観の影響を受ける前、典型的なストア派【自らに降りかかる苦難などの運命をいかに克服してゆくかを説く哲学】の影響を色濃く反映した言葉の数々は『独創的』ではなくても、一個人として哲学者として生きるのを諦めて、皇帝として、また【平和を望みつつも皮肉にも生涯を通じて戦争と対峙し続けた】著者の人間らしい葛藤や感情が生々しく伝わってきて、時間を越え自然に心を打ちます。

また【ローマ帝国の皇帝】の内面をやや下世話な言い方をすれば『覗き見』するかのような不思議な気持ちに本書はさせてくれるわけですが。そこに書かれているのは戦争中の陣地で家族や師匠、友人への感謝の言葉や、寝起きの悪い自分への叱咤激励やワキガの人への向き合い方など【想像以上に素朴な感情】が吐露されていて、親しみを感じさせてくれました。

人生について。現代人にも届く普遍的な言葉を探す人へ。またローマ帝国最盛期、理想の皇帝とされた人物の内面を知りたい人にもオススメ。

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