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三文オペラ

"そいから鮫だ、鮫にゃ歯がある その歯はつらにあらァ そいからマクフィスは どすを呑んでる だがそのどすを、見たやつァねえ。"1961年日本語初翻訳の本書は"悪の経典"でも引用されたモリタートでも知られる、娼婦に乞食、強盗に官憲の【奇妙な共犯関係】を描いたシニカルな社会風刺喜劇。

個人的には、出来事を客観的・批判的に見ることを観客に促す「叙事的演劇」を提唱した作者の代表作として、名前こそ知っていましたが、内容は知らなかったので手にとりました。

さて、そんな本書は序曲として『メッキー・メッサーのモリタート』が流れる所から始まり、ロンドン中の乞食達を牛耳る元締めのビーチャム、その娘、ポリーが強盗団の首領マクフィスと内緒で結婚したことからドタバタと物語が動き出していくわけですが。

最初に印象に残ったのは幕を重ねるごとに逞しく、したたかになっていくポリー、そして対極的な存在としてマクフィスを裏切るかっての恋人、裏街道を突き進む売春婦のジェニーといった女性陣の活躍でしょうか。やたらとモテまくるマクフィス、最後には絞首刑直前からの恩赦で貴族に年金と(ありえない)まさかの復活をとげる彼より【彼女たち女性陣の気楽さ、のびやかさ】の方に私は魅力を感じました。

また、本書はいわゆる【登場人物全て悪人】というべきか【意図的に一人称、善玉悪玉的な対立を避けて】俯瞰的、客観的な"状況"を観客に呈示しているように思えるのですが。第一次対戦で敗戦したドイツに住む作家が、戦勝国であるイギリスを舞台に描くという皮肉っぽい視点も感じる本書。物語としては【ヘンテコというかわざと破綻している】ように思いましたが、このあたりが世界中の演劇人がアレンジしたくなる魅力的な人気作たるゆえんかな?とも思ったり。

演劇好きな人や、また『悪の経典』好きな人にオススメ。

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