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羅生門・鼻・芋粥

"内供のような鼻は一つも見当たらない。その見当たらないことがたび重なるに従って、内供の心は次第にまた不快になった。"本書は今昔物語に題材をとった1916年発表の出世作『鼻』そして傑作『羅生門』『芋粥』他、人間の孤独と侘しさ、存在悪と状況悪の認識を描く初期18篇を収録した短編集。

著者の本と言えば【日本の近代文学史上、はじめてヨーロッパの短編形式をマスターした作家】といわれるだけあって、やはり論理的に整理された短編が思い浮かぶことがあり、執筆時期の最も早い、19才からの作品も収録された本書を手にとりました。

そんな本書は文字どおりの処女小説『老年』から始まるわけですが。前述の通り18篇の短編が収録されているわけですが。最初に印象的なのは、やはり若くして自身との葛藤というよりは【老成、達観したような、突き放した視線】での人物の描き方か。久しぶりに再読して、ちょっと驚きました。

また、初期の作品が主である本書から感じたのは後年【物語の面白さを主張する】谷崎潤一郎に対して、『文芸的な、余りに文芸的な』で【物語の面白さが小説の質を決めない】と反論したことを彷彿とさせる?歴史を流用しながらも【テーマやモチーフといった構造が先にあっての試行錯誤】でした。まさに早熟の天才。見事だと感じました。

人間の内面やエゴイズムを描いた短編集を探す方へ。また10代〜20代の著者の試行錯誤を感じたい方へもオススメ。

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