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現場には特効薬など無いから、小さな疑問に対する実質的な答えを追い続ける

「周りの人々の一般的な回答や解決策では我慢できなかった。」そういう2019年のノーベル経済学賞を受賞したフランス人学者のエステル・デュフロ氏の記事。とても、共感する内容だった。まさに、今、私は発展途上国と言われる場所で、「開発」に関わりながらも日々抱いている小さな疑問がたくさんあって、もっと、ずっと、深く考えていきたいと思っている。

氏の著書『Good Economics for Hard Times(未邦訳)』55歳以上の白人男性が4分の3を占めていたノーベル経済学賞を、最年少、女性が受賞した。

Q.なぜチャンスがあっても貧困層は移住しようとしないのか?

ずっと、氏の疑問だった。

「現実には、人々は必ずしもいい仕事のために引っ越さない。そして、最も生産性の高いビジネスに投資するわけでもない。健康や自尊心、綺麗な空気など、人がGDPの最大化よりも尊重することはたくさんある。掴みどころのないGDPという目標は、もう先進国の政治家が優先すべきことではなくなっているのかもしれない。」

ベトナムの給料は驚く程低い。そして、地方都市であるカントーは尚更。同僚ですら「お金が目的なら、外資系企業か海外で働くしかない」と言っている。でも、なぜ月給10000円~30000円でも仕事熱心なのか?早朝からイベントの準備や、文章の構成を考えたり、チーム内のそれぞれの役割を明確にし、共有する体制が整っているのか?いつも果物やナッツ、食べ物を私と分けてくれるのか?そして何よりも、幸せそうなのか?

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何名かにしか直接話しを聞いていないし、全体像を示すものではないけれど、私自身は以下の仮説がある。

人は、以下が満たされると幸せを感じる。

「プライド」「自尊心」「家族」「手当て(ベトナム語で直訳すると賄賂という日本語表記になるけれど、意味合いが異なる気がしている)」「安泰」

ベトナムはムラ社会だ。家族が何よりも大事で、家族の為に仕事を変えた、または住む場所を変えた同世代の子達も多い。政府組織にいると、何よりもこの家族を安心させることができる。自尊心がはぐくまれる。そして、「賄賂」というと不正やネガティブなイメージがあるかもしれないけれど、「家族旅行」や「食べ物」、「お菓子」、「花々」多くの物をイベントごとに配ったりする「手当て」のようなものだと感じていて、こういったプレゼント意識が高い。だからこそ、お金ではないものに価値を感じていて、仕事に対しても熱心だ。

記事を読んでいて、もうひとつ思い出したことがある。ラオカイ省にあるさパの市場でチェーを売っている母親と娘さんがいて、いろいろ話していたときに「なぜ、あなたは先進国である日本から、わざわざ発展途上国のベトナムに来て、住んでいるのか?」と聞かれたのを思い出した。

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あ、そうかと思った。自分自身が、相手に対して感じていた小さな疑問は、相手にとっても同様の疑問だった。相手の質問の前提には「日本は先進国、お金がある。GDPも非常に高い。全てが最新。(=幸せに違いないという前提)ベトナムは発展途上国で、お金が無く、給料も安いし貧しい。それなのに、あなたは、なぜあえてベトナムに住むのか?」と。

その場では「ベトナムが好きだからです」という、素直な、とてもシンプルな言葉で返した。それが本心だし、相手も喜んでくれるのだけれど、より深堀をしてみると、私は、この土地で、「自尊心」を取り戻そうとしているのかもしれない。

「貧困国における行動の動機を明らかにすることは、富裕国の政府にとって重要な教訓になる。」と、氏は言っていた。自分と周りの人々の「行動の動機」を明らかにすることが、今の私の興味であり、小さな疑問はまた別の小さな疑問をうむことになるのだけれど、この過程も含めて楽しく学び続けている。探求心が半端ない。

エステル・デュフロ氏は「金銭ではないインセンティブが、人々の行動を変える力になる」ことを証明した。しかし、長い間、結果について宣伝することは無かった。なぜなら、それが大きな論争を引き起こす問題だと感じたから、と。時代錯誤な、まだ発表されていない研究結果がきっとこの世の中には溢れているのだろう。周りから何といわれようが、今進む道をとにかく自分が一番信じるしかない。

飢餓や貧困の問題は非常に複雑であり、ひとつのグランドセオリーや統計で説明できる代物ものではない。食べ物が足りないにもかかわらずお金を貯めてテレビを買う人がいるかと思えば、米の価格を下げると途端に米の消費量が減ったりする地域もある。そんな複雑な世界だと、氏は述べていた。

まさに、ベトナムも数ヶ月のお金を貯めてスマホを購入したり、毎日違う洋服を着ている同僚がいる。私自身は、毎日洋服を選ぶ時間がもったい無いという理由で、ベトナムに来たときは洋服5種類くらいしか持って来てなかったのに、同僚から「マミが違う服を着ているのを見たい」という理由で、数名から合計30着くらいの服をもらう。2着のアオザイと3着のアオババも。この数は、自分が日本にいた頃よりも多いのではないだろうか。

そして、「時間が無い」ことを理由にご飯を食べていないことに対して、真面目に怒られる。

氏があわせて言っていた「人は、なぜ寛容になったり、警戒したりするのか?」という疑問は、結構、環境や周りの人々、行動の動機、自分の中でどのような変化が起こっているのか等を深堀りしていく面白いテーマだと思っている。

ベトナムをはじめ、東南アジアは、「幸せ」と「発展」の両方を備えたまま、前に進んでいけるような気がしている。まだ間に合う。戦後一気に経済発展の頂点を極めた日本や、英国離脱や移民問題で揺れる欧州、国内の格差が激しく差別意識が根強く残る米国と異なり、それぞれを経験した人々が求める理想郷が、ここにはあるような気がしている。残っている。だからこそ、追い求め続けたい。小さな疑問に対する本質的な答えを。

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