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不時着したキミへ

明日、わたしは退院する。
明日、キミは13さいになる。

病床で誕生日を迎えるキミに。
絶対、泣かないし。とか言いながらすでに泣いてるキミに。

またねとおめでとうを書くには、ポストイットは小さ過ぎる。

9歳しか違わないと言っても、9歳も違うじゃん!と言い返してくるキミに。
それなら、私も先輩ヅラして偉そうなことを言おう。

不時着したキミ

その日の体育は、走り高跳び。キミにとって、唯一の楽しみの体育の授業。
順番が来たら、飛んで、手をあげて次の人を呼ぶ。の繰り返し

高さを測定することになった。キミは力いっぱい飛んだ。

自己ベストを更新したと思った。でも、
キミはマットの外に不時着した。
見ていた韓ドラみたいにお姫様抱っこして受け止めてくれるイケメンはいなかった。

そこからはあれよあれよと言う間に、緊急搬送。緊急入院。緊急手術。
パンパンに膨れ上がった右脚の血は病院についてすぐに抜かれた。
左脚大骨折。ボルトとプレートを入れて、手のひらでも足りないくらいの縫い目が痛々しい。
右の鎖骨は卵の殻のようにきれいに割れている。

カーテンはいつも空いていて、通りかかる看護師さんや掃除のおばちゃんまでがみんなキミの名前を呼んでいた。廊下でも看護師さんたちは、キミの話で持ちきりのようだった。
でも、キミは基本的に無愛想で、「うん。」「はい。」「うざい。」しか言ってなかった。まだ目も合わしてくれないキミのことについて、あれこれ想像していた。

私の手術からしばらく経って、車椅子に乗って歯磨きを洗面台でできるようになってから、キミとたまたま居合わせた。見るからに痛々しい格好をしている。
足は包帯グルグル。肩も固定されていた。『不自由』を全身で物語ってた。

隣で歯を磨きながら、気まずい空気が流れた。シャカシャカシャカ・・・歯磨きを終わらせた方が先に声をかけなければいけない気がして、いつもの倍以上の時間歯磨きした。無言の戦いの末、私が負けた。
「何歳?」と声をかけると、しばらくの沈黙の後、ぽつりぽつりと話し始めた。

看護師さんたちは、キミが私に心を開いたことがよっぽど嬉しかったのか、リハビリ帰ってきたら、キミの隣にベットが移動されていた。「よろしくね」と看護師さんに言われた。何をどうよろしくすれば…

そんなこんなで、一週間以上の入院生活をキミと共に過ごすことになった。
リハビリのこと。学校のこと。友達のこと。韓ドラのこと。将来のこと。今苦しんでいること。。ばか話から深いことまで話した。

不時着したキミに伝えたいこと

不時着したキミに。明日13才になるキミに。いつ退院できるかわからないキミに。私が退院することを誰よりも悲しんでいるキミに。

1.不時着してもお姫様抱っこして受け止めてくれるイケメンはいない。

だから、そもそも不時着しない方がいい。
お姫様抱っこで受け止めてくれる人はこれからも現れない気がする。そんなに衝撃的な出会いでなくても、キミを大切にしてくれる人に出会えるはず。だから、もう大怪我はしないで欲しい。

2.大人は信用しなくてもいい

校庭に体を打ちつけ立つことも動くこともできないキミに体育の先生が、
「ケンケンで保健室まで行って」と言ったこと。キミは、今でも怒りを滲ませながら話す。そして、そこから大人に対しての不信感が募っていったんだね。

でも、まだまだ12さい。強がっていても、甘えたい年頃だ。
周りの大人は、「若いから、すぐ治るよ。」「リハビリ誕生日までには帰れるよ。」と。でも、結局誕生日は病院のベットの上だ。

大人が信用できない。そりゃそうだ。
大人にイライラする。そりゃそうだ。それでいい。

キミも知ってるように、私は大人用の病院食だし、大人料金だし、お酒を飲めるし、結婚もできるし、選挙にも行ける年齢。それでも、キミに精神年齢が低いと言われる。(合わせてたんだよ!笑)
大人だから、なんでもできるわけじゃない。正しいわけではない。

そこに薄々気づき始めたキミは、やっぱり13才の誕生日を迎えるにふさわしい。
バスも電車も大人料金だけど、小児科に入院してる。なんだか、宙ぶらりんのキミだから、気づけたこと。
大人が信用できないこと。大人にイライラすること。それをキミが安心してぶつけられる大人に出会えますように。

3.弱いことは悪いことではない

悲しいなら悲しんでいい。怒りたいなら怒っていい。痛いなら痛がっていい。
いい子・いい患者でいる必要なんてない。
強がれる力があることも素敵なことだけど、感情に忠実になることはわがままとは違う。

痛いことが、伝わらなくて苦しいこともある。リハビリ頑張っていても、大袈裟とか言われちゃうこともある。(それで泣いたのバレてるよ)
次に、「痛みに弱いね」と言われたら我慢しないで言い返しなさい。
「痛みに弱くて何が悪いの?」って

こんな痛みにも耐えられない自分は弱い。なんて、思う必要はない。
だって、痛みは人からは見えないから。数で表せないから。本人が感じているものが全てだから。

4.答えは写してもいい

一緒に塾の宿題をした時に、言ってたね。なんで、答えがあるのに写しちゃいけないの?どうせ、実生活でこの方程式使わんし…って。

その「なんで?」に塾の先生は、大学受験に必要だから。とか、自力で解くことに意味があるからとか答えるのかもしれない。間違ってはいない。

でも私には、キミの聞くその「なんで?」は哲学的な問いに聞こえた。

「なんで、ずるしちゃいけないの?」
ってね
キミのその問いは道徳哲学への一歩。

さらにキミは言う。
「なんで、私は誕生日なのに家に帰れないの?!」って
キミのその問いは教室の外の世界に飛び込んだ証拠。

そこに答えはない。答えらしきものはあるけど、自分で考えていかないといけないんだ。その時には、先人たちが出してきた答えらしきものを一旦写してもいい。
あの人、その人、この人の考え方を少しずつ摘みながら自分の中で答えらしきものをつくっていくんだ。
答えがある問題集をいつか懐かしむ日がキミにもきっとくる。
世界には答えがない問いで溢れているから。

5.入院すると友だちが増えるけど

入院すると、そんなに仲良く無いヨッ友からもLINEが来る。急に友達が増える。
「元気になって戻ってきてね。」「応援してる!」「大好きだよ」

偽善者っぽくない??とキミは言う。
確かに。嘘くさい。私もそう感じることがあるので「返さなくていいよ。」と言うと、大人のくせにちゃんとしてないと怒られた。
素直に喜べばいいのかもしれない。でも、正直そんなのにかまってられないし、いい顔する余裕もない。体にメス入れられたんだもん。
自分のことで精一杯なら、それでいい。
何にもおかしなことじゃない。

学校に戻ったら、居場所がなくなっているかもしれない。
友達には、友達ができているかもしれない。
不安だよね。

今のキミのゆっくり歩くペースで一緒に歩いてくれる人を探して欲しい。
今までの居場所がなくなり、友達が遠くに行ってしまうのは寂しい。でも、不時着したキミは今までのキミではない。これは事実だ。そこに居場所がないのも不時着したせいだ。ドラマの主人公が不時着した場所で新たな居場所を発見したように、キミも不時着ライフを楽しんで欲しい。
しかし、こればっかりは私は助けられないし、見つかると保証もできない。そんな友達に出会って欲しいと心から願うばかりだ。
とにかく、キミは自分のペースで歩き続ければいい。焦って転んだら、また入院だから。

また。病院以外で。

退院する私より、見送るキミの方が辛いだろう。
別れる時、ふる側よりもふられた側の方が辛いのと同じように。

仲良くなりすぎた。

キミの誕生日に退院してごめん。
キミのおかげで入院生活は寂しくなかったし、痛みは和らいだ。
病棟にあんなに笑い声が響いたのも、おばあちゃんたちが挨拶するようになったのも全部キミのおかげ。ありがとう。

隣のベットで泣いているキミに伝えたいことは山ほどあるのに、松葉杖同士ではハグもできないし、何より消灯の時間を大幅に過ぎている。

13才の誕生日おめでとう。
キミが退院したら病院以外で会おう。


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