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サッカーにおける瞬発的パフォーマンス向上を目的としたパワートレーニングについて

 

Special Writer

西岡卓哉(@taku0726_tr)

西岡さんプロフィール


早稲田大学スポーツ科学研究科でトレーニング科学に関する研究を行なっています。ア式蹴球部女子部フィジカルコーチとして現場でも活動中です。
どうすれば競技アスリートのパフォーマンスをより高めることができるのか、自分の体を使いながら日々試行錯誤しています。

【資格】
CSCS, NSCA-CPT, JSPO-AT, 中学校・高等学校教諭1種免許(保健体育)

【SNS・ブログ】
Twiter:https://twitter.com/taku0726_tr
ブログ:https://nishiokatakuya.com


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今回はゲストライターとして西岡卓哉さんの記事を掲載します!

西岡さんは早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に所属し、研究活動と現場での指導を両立されている方です。
同大学のア式蹴球部女子部フィジカルコーチも務めています。

今回はサッカー選手のパワートレーニングに関して記事を書いてくださいました。

適切なパワートレーニングはサッカー選手のパフォーマンス向上に必須だと思います。
理論から実践、そしてパワーの測定方法まで、現場でできる形で西岡さんが紹介してくれました!

ぜひ西岡さんのこの記事を現場で活かしていただきたいです。

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サッカーにおける瞬発的パフォーマンス向上を目的としたパワートレーニングについて

西岡さんアイキャッチ

1. 筆者プロフィール

はじめまして。今回の記事を担当させて頂きます、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科の西岡卓哉と申します。

現在は早稲田大学の女子サッカーチーム(ア式蹴球部女子部)でフィジカルコーチとして活動しながら、競技アスリートのトレーニングに関する研究を行なっております。今回の記事を通して、少しでも皆様のお役に立つことができれば幸いです。

早速ですが、今回はタイトルにもある通り「サッカーにおける瞬発的なパフォーマンス向上を目的としたパワートレーニング」についてお話をさせて頂きます。
具体的には、

「そもそも”パワー”ってなに?」

「なんでサッカーにパワーが大事なの?」

「どうやってトレーニングしたらいいの?」

「パワーをどう評価して活かせばいいの?」

といった内容について、過去の研究も踏まえつつ、できるだけ端的にご説明できればと思っております。拙い文章ではございますが、どうぞ最後までお付き合いください。



2. サッカーにおけるパワーの重要性

サッカーで試合に勝つためには選手一人ひとりのパフォーマンスを向上させることが必要不可欠です。

このパフォーマンスの高さは、持久力や瞬発力などあらゆる体力要素によって影響を受けますが、なかでも瞬発力は試合の勝敗に大きくかかわる重要な能力です。

2012年にFaudeら(1)は、サッカーの得点に絡む場面で最も頻繁に行なわれるアクションは直線スプリント、次に多いのがジャンプであると報告しています。

このことから、サッカーの試合でより多く得点するためには、スプリントやジャンプといった瞬発的なパフォーマンスを向上させることが非常に重要であると考えられます。


では、これらの瞬発的なパフォーマンスを高めるためには何が必要なのでしょうか。

それが”パワー”です。
パワーとは力と速度の積で表される力学的指標で、ざっくりいうと「どれだけ強く・速く力を出せているか」を示したものだと考えて頂ければイメージしやすいかと思います。

このパワーとスポーツパフォーマンスの関係性について調べてくれたのがCroninら(2)です。
Croninら(2)は、自分の体重に対してより高いパワーを発揮できるアスリートほど、スプリントやジャンプといった瞬発的なパフォーマンスが高いことを示しました。

つまり、パワーと瞬発力は非常に密接な関係にあり、パワーを高めることでサッカーの勝敗を左右する重要なパフォーマンスを高めることができると考えられます。

西岡さん図1



3. パフォーマンス向上に直結させるパワーの高め方

サッカーにパワーが重要だということは上記の研究からお分かり頂けたかと思います。

「じゃあとにかくパワーを高めていけばいいってこと?」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、重要なのはそれだけではありません。

もちろんパワーを高めることは大切です。ただし、その高め方によっては、パワーの向上をパフォーマンスに直結させることが難しくなってしまう可能性があります。
その理由をジャンプの研究を例に説明していきます。


2012年にSamozinoら(3)は、ジャンプパフォーマンスの高さは

①どれだけ高いパワーを発揮できるか
②力と速度のバランスがどれだけ整っているか

によって決定されると報告しました。

①に関してはCroninらの研究(2)でも既に示唆されていましたが、この研究(3)の面白いところは、パワーを高めてもそれを構成する力と速度のバランスが崩れていたらパフォーマンス向上に直結しないよっていうのを示してくれたことです。


ではそもそも、力と速度にはどういった関係があるのでしょうか?
バランスというからには「どっちかが増えるともう片方が減るって感じなのかな」と思われた方、まさにその通りです。

ジャンプ動作での力と速度は図1で示したような直線関係にあります(4)。言い換えると、力と速度には「低速では大きな力を出せるが高速では小さな力しか発揮できない」という性質があります。

西岡さん図1①

図1. ジャンプ動作における力と速度の関係性
(文献[4]をもとに作図)


この力―速度直線の傾き(力と速度のバランス)には、ジャンプパフォーマンスを最大化するための理想的なバランスが存在します(3)。

しかし、その理想的なバランスから大きくかけ離れてしまうと、その人が発揮できるパワーのポテンシャルを最大限にパフォーマンスへ転換することができなくなってしまうのです。

少しイメージしづらいかと思いますので、下の図2を使って説明していきます。

左側には理想的なバランスを有している選手Aの力―速度直線、右側には極端に速度不足でバランスが大きく崩れている選手Bの力―速度直線をそれぞれ示してあります。

西岡さん図2

図2. 理想的なバランスを持つ選手A(左)と
速度不足な選手B(右)の力―速度直線


選手Bは選手Aより2倍も大きな力を発揮することができますが、速度については選手Aの半分しか出すことができません。ただし、この2人が発揮できる最大パワーは全く同じです。

この場合、皆さんはどちらの選手のほうが高いパフォーマンスを発揮できると思いますか?

何となく感覚的にも選手Aのほうがパフォーマンスは高そうじゃないですか?選手Bはいくら大きな力が出せるとはいえ、速度にこれだけ制限があるわけですから。逆もまた然りで、いくら速度を出せても、力を全然出せないアスリートが高いパフォーマンスを発揮できるかというとそんな感じはしないですよね。


つまり、瞬発的なパフォーマンス向上を目的としたパワートレーニングにおいては、

①パワーの最大値を高める
②力と速度のバランスを整える

この2つの戦略が必要ということになります。では、それぞれのトレーニング戦略で重要となるポイントについてこれから説明していきます。


①パワーの最大値を高める

パワーの最大値を高めるためには、トレーニング中にできるだけ高いパワーを発揮することが重要になります。

1983年にKanekoら(5)は、最も大きなパワーを発揮できる重量(至適重量)を用いてトレーニングを行うと、他の重量でトレーニングした場合に比べて、最大パワーがより大きく向上することを報告しました。

このことから、最大パワーの向上を目的とする場合、より大きなパワーを出せる至適重量を用いてトレーニングすることがより有効な手段になると考えられます。


また、この至適重量はトレーニング種目によって異なるということが先行研究で示唆されています。

例えば、ジャンプスクワットでは0~30%1RMくらいの低重量、パワークリーン(動画1)では70~100%1RMくらいの高重量が至適重量であるとSorianoら(6)は報告しています。

また、これら2つのエクササイズ(ジャンプスクワット、パワークリーン)は他のトレーニング種目(スクワットなど)よりも大きなパワーを発揮することができる(7)ため、パワーの最大値をとにかく高めていきたいという場合は、低負荷のジャンプスクワット、高負荷のパワークリーンなどをメインに取り組んでいく必要があると考えられます。

動画1. パワークリーン


要するに、①の戦略は

「とにかくトレーニング中でも高いパワーを出して発揮できるパワーをガンガン上げていこう!」

って感じのアプローチだと思って頂ければOKです。


②力と速度のバランスを整える

最大パワーを高めるだけなら、軽い重量でジャンプしたり重い重量でクリーンをしたりしていれば、目的はある程度達成できるかもしれません。しかし、それだけでは力と速度のバランスを効率良く改善することは難しくなってきます。

例えば、低速で大きな力を出すのが苦手(力不足)なアスリートがいた場合、力と速度のバランスをできるだけ早く改善するためにはどのようなトレーニングを優先して行うべきでしょうか?

この疑問を解決するうえで重要となるのが、トレーニングにおける”速度特異性”です。

一般的に、力発揮能力の向上はトレーニングした速度領域に対して特異的に生じる(8,9)と考えられています。つまり、速い動作(低重量)でトレーニングを行うと高速領域における力発揮能力が高まり、遅い動作(高重量)でトレーニングを行うと低速領域における力発揮能力が高まるということです(図3)。

西岡さん図4

図3. トレーニングの速度特異性


このことから、上記のような力不足のアスリートに対しては、パワークリーンでは扱えないような、もっと高重量かつ低速なエクササイズ(バックスクワットなど)を優先的に行なったほうが力と速度のバランスを整えやすいということになります。

逆に、速度不足のアスリートに対しては自体重未満の超低負荷を用いたエクササイズ(バンドアシステッドジャンプや腕振りありの垂直跳びなど)が有効になると考えられます(10,11)。

動画2. バンドアシステッドジャンプ


動画3. 腕振りありの垂直跳び


実際にJiménez-Reyesら(11)は、上記のようなトレーニングアプローチによって力と速度のバランスが改善されると、最大パワーの向上が生じなくてもジャンプパフォーマンスが向上したことを報告しています。

このように、最大パワーを高めるだけでなく、力と速度のバランスにも着目してトレーニング内容を選択していくことで、パワー向上とパフォーマンスをより直結させることが可能になります。

※ちなみに、もともと力と速度のバランスが整っている場合は、そのバランスを崩さないように色々な重量を使いながら最大パワーを高めていくのが有効だとされています(11)。



4. パワーの評価方法

 ここまでの話で「力と速度のバランスが大事ってのは分かったけど、そのバランスはどうやって確かめたらいいの?」っていう疑問を持たれた方は多くいらっしゃると思います。

 そこで、実際に指導現場で選手のパワーや力と速度のバランスを評価するためのツールとして個人的にオススメしたいのが「My Jump 2」というアプリです(図4)。有料(¥1,220)ではありますが、先行研究(12)によって、その信頼性と妥当性の高さが保証されていること、数百万円するような特殊な実験機材を使わなくても力や速度を正確に評価できること、などを考えるとコスパはかなり良いんじゃないかなと思っています。

西岡さん図5

図4. My Jump 2


このMy Jump 2を使えば、力と速度のバランスがどれだけ崩れているかを確認することができるのですが、そのために選手がやることは「4種類の重さ(例:0, 20, 40, 60kg)のバーベルを担いで全力でジャンプする」だけです。

これによって、その選手が力不足なのか速度不足なのか、そのバランスがどれくらい崩れているのかを把握することができます。使用方法の詳細については今回は割愛させて頂きますが、YouTubeで「My Jump 2」と検索すれば一番上に測定手順を説明してくれている動画が出てきますので、そちらを参考にしてみてください(図5)。

画像10

図6下

図5. 力―速度プロファイルの一例(上)と測定手順の検索方法(下)


こういったアプリを使って、各選手の力―速度プロファイルを行えば、その選手にどのようなトレーニングがより必要かを知ることができます。

Force deficit(力不足)なら高重量のバックスクワット、Velocity deficit(速度不足)なら低負荷のジャンプトレーニング、を重点的に行なっていくといった具合です。このようにエクササイズを処方していくことで、力と速度のバランスをより効率的に改善することが可能になると考えられます。



5. まとめ

今回は「サッカーにおいて重要なパワーをどうやって高めていくべきか」ということについて、いくつかの研究をもとにお話させて頂きました。

前述した通り、パワーを効率的に高め、それをパフォーマンスにつなげるためには、それぞれのエクササイズに応じて適切な重量を設定すること、選手のパワー発揮特性(力不足or速度不足)に合わせて適切なエクササイズを選択することが重要になってきます。

こういった研究背景を把握した上で、アプリ(My Jump 2)等を上手く活用していくことができれば、サッカー選手のパフォーマンスをより高く、より確実に向上させられるかもしれません。



参考文献

1. Faude, O., Koch, T., & Meyer, T. (2012). Straight sprinting is the most frequent action in goal situations in professional football. Journal of sports sciences, 30(7), 625-631.
2. Cronin, J. B., & Hansen, K. T. (2005). Strength and power predictors of sports speed. J Strength Cond Res, 19(2), 349-357.
3. Samozino, P., Rejc, E., Di Prampero, P. E., Belli, A., & Morin, J. B. (2012). Optimal force–velocity profile in ballistic movements—Altius. Medicine & Science in Sports & Exercise, 44(2), 313-322.
4. Jaric, S. (2015). Force-velocity relationship of muscles performing multi-joint maximum performance tasks. International journal of sports medicine, 36(09), 699-704.
5. Kaneko, M., & Fuchimoto, T. T. H., & Suei, K.(1983). Training effect of different loads on the force velocity relationship and mechanical power output in human muscle. Scand. J. Sports Sci, 5, 50-55.
6. Soriano, M. A., Jiménez-Reyes, P., Rhea, M. R., & Marín, P. J. (2015). The optimal load for maximal power production during lower-body resistance exercises: a meta-analysis. Sports Medicine, 45(8), 1191-1205.
7. Cormie, P., McCaulley, G. O., Triplett, N. T., & McBride, J. M. (2007). Optimal loading for maximal power output during lower-body resistance exercises. Medicine & Science in Sports & Exercise, 39(2), 340-349.
8. McBride, J. M., Triplett-McBride, T., Davie, A., & Newton, R. U. (2002). The effect of heavy-vs. light-load jump squats on the development of strength, power, and speed. The Journal of Strength & Conditioning Research, 16(1), 75-82.
9. Haff, G. G., & Nimphius, S. (2012). Training principles for power. Strength & Conditioning Journal, 34(6), 2-12.
10. Samozino, P., Rivière, J. R., Rossi, J., Morin, J. B., & Jimenez-Reyes, P. (2018). How Fast Is a Horizontal Squat Jump?. International journal of sports physiology and performance, 13(7), 910-916.
11. Jiménez-Reyes, P., Samozino, P., Brughelli, M., & Morin, J. B. (2017). Effectiveness of an individualized training based on force-velocity profiling during jumping. Frontiers in physiology, 7, 677.
12. Balsalobre-Fernández, C., Glaister, M., & Lockey, R. A. (2015). The validity and reliability of an iPhone app for measuring vertical jump performance. Journal of sports sciences, 33(15), 1574-1579.



Writer

西岡卓哉

西岡さんプロフィール

早稲田大学スポーツ科学研究科でトレーニング科学に関する研究を行なっています。ア式蹴球部女子部フィジカルコーチとして現場でも活動中です。
どうすれば競技アスリートのパフォーマンスをより高めることができるのか、自分の体を使いながら日々試行錯誤しています。

【資格】
CSCS, NSCA-CPT, JSPO-AT, 中学校・高等学校教諭1種免許(保健体育)

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