見出し画像

譲ってあげたと思えばいいか。

はじめてパキッと折り曲げた指先の感触、
並んで出てきたケチャップと粒マスタードの列を見たあの時のことを
あなたは覚えているだろうか?

感嘆の声を上げたのは私だけではないはずだ。

仲良くならんだ細い2列のラインを繰り出した時、
誰もがおおーっとなったに違いない。

今はコンビニでは欠かせない、
みんなが当たり前にパキッとしているアイツだけど、
実は「パキッテ」という名前があるらしい。

いや、昔は「ディスペンパック」という名前だったが、
「パキッテ」と改名してバカ売れしたのだそうだ。

へー。そーなんだー。
さまぁ~ずとかくりぃむしちゅーとか、そんな感じだね(?)


さて。
久しぶりにむしょうにアメリカンドッグが食べたくなって、
コンビニのレジに並んでいた。

いつもよりも仕事がおしてしまい、ちょっと遅くなったランチ。
14時を回っているというのに、休み明けの割に人の多いコンビニは、
いつもは見かけないバイトの子がいて、
ああ、そういえば今日は冬休み中だったっけ、と
「今がいつなのか」を思い出させた。

大晦日と元旦の2日間以外、年末から仕事が続いていると、
どうも曜日の感覚が鈍ってしまって「今がいつなのか」わからなくなる。

それはさておき、コンビニのレジ前でのこと。
目の前に並んだ人が、ちょっとイヤな動きをした。

イヤな動きといっても、
ジリジリ下がってくるとか
くるっと回ってベーっとするとか
おでんをツンツンするとか
華麗なステップを踏んで踊りだすとか
そういった類いではなく。

そこはかとなく「やべえぞ」を察知させる動き、とでも言おうか。
何だかよくわからないけれど、
「もしかして? もしかすると、もしかするな……」的な動き。


列に並ぶ間、別にショーケースの商品をじっと見ていたわけでもなく、
おにぎりの棚や、店内にいるツレをキョロキョロ見まわしたり、
ポケットに手を突っ込んでソワソワしたりしている
落ち着きのなさそうな彼から感じた「やべえ」臭。
(こう表現すると、怪しいヤツを想像するかもしれないが、
いたって普通のあんちゃんだったので、あしからず。)


自分で言うのもなんだけど、こういう時のカンって、本当に鋭くて困る。
野生児のカンってやつだろうか?
当たってほしくないなーと思うのに、なぜか十中八九当たってしまうのだ。

順番が来て、案の定、あんちゃんはバイトの子にオーダーした。
そう、アメリカンドッグを。

しかも2本。


ぎゃーーーー!
おい!
なぜ?
なぜ2本?
ご無体な!
せめて1本私に残してくだせえ……


そんな私の心の叫びが聞こえたかどうかわからないが、
無情にもラスト2本のアメリカンドックは目の前から持ち去られた。
(きちんとお買い上げいただき、お持ち帰りされた、のが正解)


正月気分も抜けきらない店内のBGMが
むなしく脳内に響き渡る。

ああーーー、私のお昼ごはんんーーーーー
この悲しみ、ご理解いただけるだろうか?

もしかして、彼はエスパーで、
こちらの様子を見て買い占めたのでは?

それとも、よっぽど後ろのおばちゃん(私)が
アメリカンドッグ食べたい!って顔ししてたから?

確かにアメリカンドック買う気満々だったから、
私の圧が、彼をそうさせてしまったのだろうか?

ちょっと遅いランチのプランが崩れた瞬間。
頭の中を妄想が駆け巡る。

いったい何のためにコンビニまで来たのだろう?
Oh no!
その場で膝から崩れそうになり…… はしなかったけれど、
なんか、とにかくもう、本当にすごくガッカリした。


おかげで、茫然自失のままレジの順番が回ってきて、
食べたくもない肉まんを買ってしまったではないか。
なんというミスジャッジ。

ごめんよ、肉まん。
キミに罪はないんだ……


嵐のような感情が吹き荒れたコンビニを後に、自宅に向かう道すがら、

「でもさ。私アメリカンドックには、
ケチャップとマスタード派なんだよね。
粒マスタードじゃなくて、和からしに近い方のマスタード。
あいつ(パキッテ)、粒なやつじゃん。」

そうつぶやいた自分。

なんて、なんて小さいんだ、私。
お正月だというのに。


カラッと晴れた寒空にわびしさがつのる中、
自宅が近づくにつれ、ひと足ごとに変化する感情。

「けどまあ、譲ってあげたと思えばいいか。
うん、そうだな。
今回は譲ってあげたってことで。お正月だしね」

最後にはそう言いながら、自宅の扉を開けたのだった。


※2022年1月にあった実話です。



最後までお読みいただきありがとうございます♡


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?