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洞窟の奥はお子様ランチ

「洞窟の奥はお子様ランチ…」

「はい?」

被害者の机を調べていた紗英さえさんが発した不可解な言葉に聞き返す。

紗英さんと僕は殺人事件の調査のため二人目の被害者、豊中康介とよなか こうすけ氏の自宅を捜索している。


一月ほど前に最初の被害者である冒険家、桃山敬之ももやま のりゆき氏が何者かに毒殺された。
その犯人の目星もつかない中、同じく冒険家の豊中氏が毒に侵されて倒れた。
幸い豊中氏は発見が早かったため一命をとりとめたものの、いつ意識が戻るかが分からない状態。
有名冒険家2名が相次いで毒に倒れるというセンセーショナルな事件として注目されており、早期の解決が求められるということで捜査一課の椰子野やしの警部から僕たち神田川探偵事務所に捜査協力の依頼があった。


「豊中氏の手帳の最後のページに書かれているのだよ。ほら。」

紗英さんが拡げたページを見ると、そこには確かに

『洞窟の奥はお子様ランチ』

という1文が殴り書きされている。


警察の聞き込みによると、豊中氏は桃山氏が毒殺された後から落ち着きをなくし、事件の情報を集めてまわっていたという。
豊中氏と桃山氏は長く同じチームで世界中を飛び回っていた。
数年前にチームが解散し、その後はそれぞれ単独で活動していたようだが、友人として交流があったのだろうか?


「洞窟の奥はお子様ランチ…意味が分からない文ですね。
まあ事件にはあまり関係なさそうですが。」

「ふむ…そうとは限らないよ?」

紗英さんの目がキラリと光る。
…これはろくでもないことを考えている時の目だ。

「とりあえず行ってみようか!」


イヤな予感は的中し、今僕の目の前には洞窟の入り口の大穴ある。
ここが桃山氏と豊中氏の二人がチームを組んでいた時に最後に探索した洞窟らしい。
彼らはこの洞窟の探索が終わってすぐにチームを解消したのだ。

「今日はもう遅いので明日の朝から調査を始めるとしよう!」

ワクワクした顔で紗英さんが言う。

「ここまで来て今さらですけど、さすがに今回の事件には関係ないんじゃないですかね?
地球の反対側ですよ?!」

そう、ここは南米。
答えは洞窟にある!と興奮した紗英さんを止めることもできず、捜査現場を出てそのまま神田川家の自家用機に乗せられて南米まで来てしまった。

フットワークの軽いお金持ちが探偵なんて始めるとろくなことがない。
その推理力がポンコツの場合は特に。


その夜、洞窟の前に設置された巨大なテントで捜査資料を見直していると、紗英さんが興奮した顔で入ってきた。

「ちょっと教えてくれ!」

「どうしました?」

「今回の事件の関係者の中に"オチクラ マオ"という名前の人物はいたかな?」

「オチクラ…どうでしょう。
資料にはそのような人物は出てきませんが、警部に確認したら分かるかもしれません。
その人がどうかしたんですか?」

「暇だったので『洞窟の奥はお子様ランチ(どうくつのおくはおこさまらんち)』を並び替えて遊んでいたのだけどね。」

「かなり暇だったんですね…」

「そうしたら『毒殺 オチクラマオの犯行(どくさつ おちくら まお のはんこう)』という文ができたんだよ!
もしかして豊中氏が残したアナグラムヒントだったりしないかと思ってね」

「…え?いやまさかぁ…。
残すならもう少し分かりやすいヒントを残すんじゃないですかね…」

「たしかに!こんな分かりにくいヒントは残さないか!」

うまいこと文になったから興奮しちゃったよ、わはは!と紗英さんは勝手に納得して自分のテントに戻っていった。

これが豊中氏が残したヒントだとしたら分かりにくすぎる。
しかし他でもない紗英さんが見つけたというのが気になった。
紗英さんはこれまでこういった思いつきや勘だけで事件を解決してきたと言っても過言ではない。
推理力はポンコツなのに捜査一課から協力依頼が来るのは、なんやかんやですべての事件を解決してきたからなのだ。

念のため警部に「オチクラマオ」という人物が関係者の中にいないか、確認のメッセージを送っておいた。


翌朝。

「紗英さん、先程警部から連絡がありました!
豊中氏が意識を取り戻し、犯人が捕まったそうです!」

「えぇっ!」

「犯人の名前は『落倉真央(おちくら まお)』。
以前桃山氏と豊中氏の同じチームにいた人物だそうです。
紗英さんが見つけた文を受けて落倉の部屋を捜索したところ毒物が発見されたそうです。」

「なるほど、やはりあの手帳のメッセージは豊中氏の残したヒントだったのか…」

「それなんですが…。
豊中氏に確認したところあのメッセージにそんなヒントは込められていないらしくてですね…次の冒険小説のテーマをメモしておいただけだそうです」

「へーそうなんだ、洞窟とお子様ランチってどんな小説になるんだろうね!
…え、どういうこと?」

「つまり…紗英さんが何の関係もないメモをこねくり回して考えた文がたまたま犯人の名前を指していた、ということになります」

「たまたまってそんなことある?!」

今回もまた紗英さんは奇跡的な勘の働きによって犯人を見つけてしまったのだ。
ちなみに警察内では神田川紗英をもじって「勘だけは冴え」という異名で呼ばれているらしい。

「じ、じゃあ洞窟探検は?お子様ランチは?」

「なしですよ!だってもう事件は解決したんですからね!帰りましょう!」

イヤだイヤだと騒ぐ紗英さんを引っ張って空港へ向かう。

結局この南米ジャングル一泊旅行は事件解決には全く必要ないものだったな…。
いや、紗英さんが答えを導き出すためには必要だったのか?
考えても答えは出そうにない。


「【洞窟の奥はお子様ランチ】のお題で【冒険小説風】」というテーマで書きました。

ちょっと変わったキャラ設定を作っておくと楽しく書けることを発見しました。
同じ登場人物をいろんな小説に登場させるのも楽しそう。

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