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青々とした風に乗ってきた、大好きな香りの話

先日、夕方、実家の畑を歩いていた時のこと。
その日も、オレンジと水色が薄く混じった空を見上げて、ぼーっとしていました。
色の違う緑がもくもくと茂る山、何万枚あるだろう、大きなイチョウの木の葉が風で擦れて、ざわざわと音を鳴らしている。そんな青々とした風と音に乗って、違う色の香りが、目の前を通過していきました。

ユリのような、ジャスミンのような、淡いピンク色。上品で、でもしつこくない、しっとりとした豊かな香り。わたしの好きな、香りでした。

え、誰??

そう思わず言ってしまうほど。
でも、畑にはわたし以外誰もいないはず、です。それにその日は香水も付けていませんでした。普段使っている柔軟剤の匂いでも、ない。

キョロキョロと辺りを見回しましたが、やっぱり誰もいません。これだけの香りを運ぶような花畑が、近くにあるわけでもありません。

ひと通り見渡してふと後ろを振り返ると、そこに香りの正体がありました。

香りの正体、白い花

そこには、まだ木と呼ぶには細く小さい、文旦の木。おじいちゃんがまだ歩くことができた頃に植えたもの。そこには小さな小さな白い花が、いくつも咲いていました。

文旦は早くて10月から、遅くて3月ごろまで。
ついこの間まで毎日食べていたような気がしたけれど、もう花が咲いているんだ。花が枯れたら実をつけて、青くなって黄色くなって、その時はまた寒くなっている。
小さな白い花を眺めながら、そんな時間の流れを感じていました。

そしてまた、ふーっと青々とした風が吹いたとき、あの淡いピンク色の香りが、顔じゅうに降りかかってきました。

◇◇◇

文旦とは、さぼんとも呼ばれる高知を代表する果物のひとつで、とても大きな果実です。皮は厚く、柑橘系の匂いがとても強い。置いてあるだけで部屋は柑橘の香りに満たされます。昔からわたしの大好きな果物です。ただ、食べるために剥くのがとても大変。。。

黄色くなる前
食べごろ

目が覚めるような明るい黄色、ひと玉で溢れんばかりの柑橘の香り、思っているよりずっと爽やかで甘酸っぱく、みずみずしい果実。そんな文旦の印象とは違う香りが、あの大きな果実よりずっと小さい、白い花から放たれます。
柑橘類の花は、あの爽やかな果実の香りとは違う、淡いピンク色の、しっとりとした香りを放ちます。どこかで出会ったらぜひ一度、香りを確かめてみてください😊

◇◇◇

夕方、青々とした風に乗ってきた、淡いピンク色の香り。大好きなその香りに癒されて、また文旦が好きになりました。

文旦の花言葉は「楽天家・幸福」。
この木がまた文旦の実をつける頃、ささやかな幸福が、そこにありますように。

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