コミュニティの力でAIをプロダクトに組み込むアイデアに磨きをかけよう
「生成系 AI でプロダクトを革新せよ」そんなミッションを背負うことになったプロダクトマネージャーは急速に増えていると思います。とはいえ安全性や安定性の懸念もあり、なによりアイデアを考える時間がとれない・・・プロダクト筋トレで実施したアンケートから見えた課題を解決すべく、前回プロダクトを成長させる生成系 AI のユースケースを考えるワークショップを開催しました。満足度は 5 段階中 4.8 、他の人にお勧めする度合いも 4.5 と非常に好評なイベントとなりました。詳細は次の note にまとめてます。
好評ならもっかいやるしかねぇ、というわけで 2023/12/13 、第二回を開催しました!そこで見えたのは AI をプロダクトで活かすには「スピード」が肝であること、スピードを出すための確信を得るには「コミュニティの力」を借り他社のプロダクト作りに関わる方々から多面的なフィードバックを得る機会が重要ということでした。
本記事ではイベントの内容に触れつつ、なぜスピードとコミュニティの力が重要と実感したのか綴りたいと思います。
AI機能の仮説検証ではスピードが重要
イベントは講演とワークショップの 2 部構成になります。前半の講演は年間 100 件はお客様の機械学習を支援する猫好き AWS の大渕さん、 Salesforce でプロダクトマネージャーを務め現在 Notion のソリューションエンジニアである早川さんより実施頂きました。資料はこちらです。
会場は AWS Startup Loft で行いました。 AWS アカウントをお持ちであればいつでも使えるコワーキングスペースとなっているのでお見知りおきを。
前半の講演で重要と感じたポイントは 3 つでした。
生成系 AI が誰でも試せるならプロダクトマネージャーも試そう
はやくユーザーに体験してもらいフィードバックをもとに改善しよう
アイデアにフィードバックをくれる人たちとの関係を築こう
AWS 大渕さんの発表より、生成系 AI によってある意味日本語 ( 英語 ) が書ければ誰でもアイデアを試して実験できるようになったのが大きな変化と示されました。今までの機械学習では、アイデアと「実際に機械学習でできること」にギャップがあり期待値コントロールに難儀することがありました。しかし、ChatGPT や Claude.ai の登場でエンジニアでなくてもアイデアを事前に試しどこまでできるか検証できるようになりました。
これにより↓のような理想的な会話が成立しやすくなっています。
一方で生成系 AI には出力の不確実性や正確でない出力をするリスクがあります。そのため現場は盛り上がってもチームやお客様が「プロダクトに組み込む」判断に踏み切れないこともあるのではないでしょうか。
ユーザーにとって価値があるかは実験しないとわかりません。 Notion 早川さんからは Notion AI の顧客の声を活かした高速な仮説検証と、それを再現性あるものにするためのコミュニティでの取り組みを紹介いただきました。Notion では 2022 年の GPT 最新モデルに衝撃を受けた後わずか数週間で生成系 AI 機能を α リリース、 3 ヵ月で 100 万人以上のユーザーからフィードバックをもらい体験を改善し、ローンチした後も 1~2 ヵ月のペースで新機能をリリースしています。 Notion ではアンバサダーコミュニティがあり、まずアイデアに対し反応をもらえる関係を作っています。
ポイントは、一番最初は GPT の能力をそのまま使い文章を「書く」機能を提供していたところ、フィードバックをもとに文章を「改善する」機能に変更したことです。より多くのユーザーへ届ける前に高速な検証で修正する重要さがわかります。
早川さんはプロダクト作りを実践できるコミュニティ PM DAO の運営もされています。そこで作成している Value Discovery の開発で ChatGPT の登場という技術シフトに直面したとき、 Notion と同様に迅速なプロトタイピングからすぐにフィードバックを得てリリースを行いました。結果、半年で 2000 名を超えるユーザーを獲得するまでに至っています。
Notion というベンチャー、また身軽なコミュニティでの開発だから、とみる向きもあるかもしれません。しかし Notion はアンバサダーコミュニティを運営し、PM DAO では Value Discovery に至るまでのうまくいかなかった開発も含め常にユーザーにプロトタイプを当てフィードバックが得られる関係を築いてきました。企業の規模や製品の大きさではなく、こうした「フィードバックをくれる関係づくり」が下地にあるかが、高速なプロトタイピングができるかを決める要因ではないかと感じました。 Value Discovery の例だけ見ると簡単なサクセスストーリーに見えるかもしれませんが、資料を見ていただくとわかる通りここに至るまで 3 回以上の仮説検証を回し、半数以上のユーザーにヒアリングし、年単位で時間をかけて到達しています。地道な活動の中で「フィードバックをくれる人たち」と関係を築きコミュニティに招いてきたことが Value Discovery の成功を支えており、こうしたユーザーへのヒアリング活動はどんなプロダクトにおいても明日からとれる行動ではないかと思います。
講演の締めくくりに、「毎週必ず一人のユーザーにインタビューをして課題探索と価値提供の両輪を回す」プロダクトディスカバリーをしよう!と呼びかけがありました。ぜひ来週ヒアリングするユーザーをリストアップして連絡を取りましょう。
コミュニティの力でアイデアを洗練する
仮説検証にはまず仮説が必要です。しかし、日々の業務が忙しい中まとまって AI 活用のアイデアをアウトプットするのは難しいでしょう。本イベントの目的はこの「アウトプットを持ち帰ること」で、明日から議論が始められるアイデアを持って帰って頂くことです。
前回同様、 Easy / Normal / Hard とレベルを分けました。 Easy では、自分のアイデアはもちろん他参加者からもらったアイデアが持ち帰れます。 Normal と Hard ではビジネスモデルキャンバスをガッと書き上げ、それに対するフィードバックを持ち帰ることができます。
生成系 AI を使ったビジネスモデルの作り方のポイントをお話ししたのち、テーブルごとに分かれてワークを実施しました。
テーブルに同席した方々は概ね初対面なので、活発な議論のためにはアイスブレークが欠かせません。そこで使うのが生成系有名人当てクイズです。 AWS の PartyRock というサービスで作りました。↓の画像だと横にめっちゃ長いですがスマホで見やすいよう幅を最適化しています。自己紹介をしながら一人一人の属性 ( 千葉県出身、スイーツが好きなど ) を集め、すべての人の属性を満たす人として生成系 AI が推定する人を当てるゲームです。結構盛り上がるのでぜひ忘年会シーズンでご活用ください。
閑話休題。アイスがブレークしたところでワークです。
Easy ではブレインライティングという手法を使い自分が発想したいテーマについてアイデアを出していきました ( 英会話サービスで受講生の学力を上げるのにどうやって生成系 AI を使うか ? など ) 。他の人が書いたアイデアを継承・発展するように書くのがブレインライティングの特徴です。テーマについてアイデアを書いたら次の人に渡す、を繰り返し最終的には自分のテーマに対し他参加者の方が出してくれたアイデアが集まります。
Normal/Hard ではビジネスモデルキャンバスを書き、お互いにレビューを行います。レビューの観点は、①顧客体験が改善されているか、②利益が生まれるか、③蓄積されるフィードバックによりモデルが改善されるか、の 3 点です。顧客体験が改善され、利益につながり、競合と差別化されていく循環がビジネスモデルキャンバス上で回っているかをチェックします。
いずれのテーブルからも「時間がなくて厳しい!」という声がきこえましたが、短時間で集中してワークをするのはなかなか良いチャレンジだったのではないかと考えています。難易度に対するアンケートは「ちょうどよい」の 3 を中心に釣り鐘型になっており、いい塩梅ではないかと思います。
ワークショップ終了後のアンケートで特に多かったのは、「他の方の意見を聞くことができてよかった」ことでした。一人でアイデアやビジネスモデルを考えるとどうしても発想が出なかったり不安なポイントが出てくると思います。他の方からフィードバックをもらうことで「仮説検証を始める自信がつく」のであれば、これはまさにコミュニティの力だなと思います。
Easy に参加いただいた方の感想
他の方の意見を聞くことができて非常にためになりました!
普段あまり生成AIを活用できていないこともありテーマをだすことから難しかった。限られた時間で他の人のテーマに対して役立ちそうなアイデアを考えることが難しかった。
自分の頭の整理にもなって非常に良かった
Normal / Hard に参加いただいた方の感想
普段プロダクトマネジメントに従事していない人にもおすすめだと思いました!
もう少しフィードバックを交換するお時間あるとよかったかもしれません
前から持ってたアイデアが、深掘りできたのと、フィードバックもらえてさらにアイデアが広がりました!
同じテーブルの方々がポジティブなフィードバックをくださってとても楽しめました
他社の方のビジネスモデルキャンバスを見れるのが良い
ファシリテーターとして参加いただいた方からのフィードバックは次の通りです。よりアイデア出し、ビジネスモデルのフィードバックを良質にするための観点です。
Easy : 生成系AI事例のストックが少ない方が多かったので事例やプレスリリースをまとめた資料を共有したりもし知識豊富な人に仕事を頼めるとしたら、など問題の確度を変えると発想を促せるかもしれない。
Normal : ビジネスモデルキャンバスの書き方をある知らないと戸惑ってしまうと感じたので、書き方のガイドがついているとよいかも。
「こういう発想もあるのか」という発見もこのイベントで持ち帰ることのできる価値の一つだと思うので、全体発表があっても良いかも。
本ワークショップは AWS で開発・提供している ML Enablement Workshop の Day1 ( 理解編 ) の資料をカスタマイズして行っています。なので、この先アイデアの検証を進めていきたいという場合ワークショップ資料の Day2 、Day3 とこなしていくと検証のステップを勧められる寸法になっています。AWS からの提供条件を満たせば AWS からがっつり支援をさせて頂きます。
最後はプロダクト筋トレ運営の小城さんからありがたい言葉を頂きました。
終了後に懇親会を開催しました。予定していたお店が当日漏電で使えなくなるというトラブルがあり、忘年会シーズンのさなか当日 10 名超の予約となると「ここから入れる保険はあるか ? 」と焦りましたが系列店に案内いただき貸し切り状態で過ごすことができました。お詫び & お土産にパンもいただいたのですが、大変おいしかったのでここでお勧めしておきます。漏電した当初のお店の復旧に、客足という形で貢献できれば幸いです。
おわりに
本記事ではイベントの内容に触れつつ、なぜスピードとコミュニティの力の2つが重要と実感したのか綴りました。私は AWS の Developer Relations として「本番で AI/ML をやるならやっぱり AWS 」と思って頂くべく、ワークショップを通じまず本番で AI/ML 活用して頂く支援を推進しています。え ? AWS にも生成系 AI のサービスもあるの ? と思った方はぜひこちらの資料を参照いただければ幸いです。
AWS で生成系 AI を作る時の基盤 (=Bedrock) となる Amazon Bedrock についてコミュニティの皆様とアドベントカレンダーを進めています。ぜひ様々なアイデアと AWS での実装方法に触れていただければと。
生成系 AI の活用は日本全体で大きなテーマと感じています。コミュニティの力を醸成しスピード感を高め、インパクトが限定的という予想を超えていくために、ぜひプロダクトマネジメントや AI/ML 活用に強い方は今後のイベントでファシリテーターとして参加いただければ嬉しいです。 関心ある方はいつでも DM 、またプロダクト筋トレコミュニティの「#9_機械学習_生成ai活用」チャンネルでお声がけください。1 月あたりにはまた面白い企画が予定されているのでお楽しみにです!
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