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エブリ・ブリリアント・シングの考察・はじめに。(追記あり)

こんにちは!関心を持っていただき、ありがとうございます。こちらは、エブリ・ブリリアント・シング(以下EBT)を考察していくシリーズの余談・前置きです(本稿はネタバレなし)。

ここでは、考察している理由やそこでの感想について前置きとして記しています。EBTのすごいと感じるところについて、整理しておくために1つの記事にしました。



考察をはじめた理由

EBTの魅力の一つは、没入感です。俳優さんとの精神的な近さ、俳優さんのふるまいに醸成されていく安心で安全な場の感覚、自分が舞台上のセットの一部になったかのような物理的な近さ、カードを受け取って自分の出番を待つという責任感、配役を任された人の表情の変化や戸惑いが見えて一緒に味わう緊張感、会場にいる人たちへの信頼感など、このお芝居の没入感を創出する脚本のしかけがたくさんあるとおもいます。

それから、登場人物の人柄や立場などの詳細を曖昧にすることで、鑑賞者が自由に人物像を思い描き、それぞれの物語として受け取れるように作られています。その余白は、行った日にたまたま配役を任された人の印象に影響されて、そのまま登場人物の人物像の差になるので、かっこよかったり愛しくおもえたり、哀愁を感じたり違った味わいを生むわけです。この仕掛けも含めて、EBTって本当にすごい。



ただその余白の存在は逆方向の没入感を生む仕掛けにもなっていて、「僕」の一方的な語りのパートに入り特定の演者像を取り上げられた途端、ノンバーバルから受け取る(非言語的な)メッセージや情報が絶たれてしまうので、観客は過去の経験をたよりに登場人物の行動の原因や理由を推測するしかなくなります。それが、鑑賞した人によって異なる味わいを生み、別の意味を持ったりするのです。

そのようなバイアスはポジティブな経験からも生まれますが、私はネガティブな面に作用して、1回目の鑑賞中には辛くなったりしました。鑑賞後はそれを上回る感動やあたたかい余韻に包まれて幸せな気持ちになりましたが(それもすごい)、2回、3回と鑑賞するうちに、その辛い場面に生じる自分の感情のほうに違和感を覚えるようになりました。登場人物に重ねているバイアスを変えたり余裕を持たせることで、辛さが生じないようにできないかと考えたのです。それが考察を始めた理由の1つめです。

考察の理由の2つめは、EBTはイギリスで生まれた物語なので、日本の価値観や文化との違いによって、演出の意図がずれたり気づかずに終わる要素もあるかもしれないよね?と考えたことがきっかけです。具体的には、最後の頃に猫が一瞬登場するのですが、その名前を告げたあとにわずかな間が入るので、それってイギリスでは笑いを待つ間なんじゃ・・・???と感じたことでした。そういったことが、もし他にもたくさんあるなら、そのままではもったいないので知りたいとおもいました。

イングランドのTheatre by the LAKEでのEBTの様子


EBTの奥の深さ


上記のようなしかけがたくさんあっても、そこに違和感を感じることなく誰でも楽しめて、最後にあたたかい気持ちになれるのがEBTのいちばん素敵ですごいところです。

そして、その日その場所でその会場にいる人だけで共有する笑いや雰囲気の体験。これが一期一会か!これまでは意味の理解だけで実感としての理解がなかったので、ちょっと大袈裟に表現するならばすこし胸が震えました。人生の醍醐味だよという人に、はじめて共感しました。一期一会の出会いの素晴らしさを知る前と後では、世界の見え方が全然変わった気がする。

EBTというお芝居に出会えたことがなによりも私のBrilliant Thingなので、解釈や考察は無粋でしかないよなwという気持ちも本当はあります。私の発見や解釈は正解をめざすものではなくて、ただそのときに辿り着いた1つの解なので、違った解釈があればぜひ読んで視野の広がりを楽しみたいし、鑑賞と年齢を重ねて変化していく感じ方もあるはずなので、記録して振り返ることも楽しみにしています。

ついでにいうと、EBTを深く楽しむために始めたイギリスの文化や価値観やそれらを含めた歴史の変遷を知る作業が、いまはとても面白くなっています。正直なところ、大英帝国の頃の歴史的な印象で好感度が低いのが私の中のイギリスだったんですが、いまはイギリスの良さや興味深さとともに愛着がわいています。知らないと好きになれないし、知ってしまったらもう嫌いにはなれないよね。そんなことを考えながら書いています。


はじめに。のまとめはすごいしか言えない


たくさんの人が鑑賞後にSNSで「たくさんの人に観てほしい!」と投稿しているのを見かけます。本当にそうおもいます。たくさんの人に、EBTを観て元気になって欲しい。たくさん笑ってほしい。そして出来たら何度も観て欲しい。世界各国でほぼ完全コピーのEBTが上演されていてYoutubeにもたくさん動画があがっていますが、個人的には佐藤隆太さんのEBTがとにかくすごい!と感じます。掛け値なしにみても、カードを読み上げに対するリアクションとか、包容力とかあたたかさや優しさがすごく響くんですよね。この舞台を止めずに順調に動かすだけじゃなくて、その日の観客とのセッションを全身全霊で楽しんでいる感じに観客が巻き込まれてる、みたいに感じられて嬉しくなる。佐藤隆太さんのことは存じていましたが、こんなにすごい方だとは知らなかったです。本当にすごい。

扱われるテーマはけして楽しいものではなくて、辛い気持ちになったり重く感じるものですが、そんなテーマを通してでさえ、ひとは幸せな気持ちを見出だしたり幸せな気持ちになれるということを、きれいごとや理論ではなく唐突に体験し、理解したという感じです。

いままでは、そういう話題にはシリアスな態度でいなければいけないと思い込んでいました。でもEBTでは、悲しい雰囲気になった数分後に周囲の人たちと大笑いしてしまう状況になんども遭遇するので、これまでの神経細胞のつながりがショートして機能停止みたいになるんです。たぶん。で、脳の神経細胞の「不幸なとき」に対する情報のやり取りが劇的に変化してしまって、出力される反応としての「態度」や「感情」が自由になった感じ。EBT体験で固定観念から強制的に解放されたと表現してもいいような気がします。しんどいときこそ笑いが必要だから、これはありがたい変化です。ありがとうEBT。まじですごい。どこまでが計算された効果なんだろう。(これは原作者のDuncan Macmillanの狙い通りの反応だったことが後にわかりました:詳しくは別の記事で)


以下のリンクはイングランドのシアター・バイ・ザ・レイクのHPで公開されているEBTの脚本です。これをもとに考察しています。

Every Brilliant Thing by Duncan MacMillan - Theatre by the Lake

Every Brilliant Thing by Duncan MacMillan - Theatre by the Lake
EBT TOUR 2023


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