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1話.明けない夜はない〜全財産を失って

2009年、僕はのちの妻となるヒカリにこう言っていた。


「俺は死にたいなんて一度も思ったことがない。だから、死にたい人の気持ちがわからない」


2019年、その言葉を発した10年後、僕は妻となったヒカリにこう言ったのだ。



「死にたい。……俺、死んでもいい?お願いだから死なせて 」



人生は、何が起こるかわからない。


今、人生が最高の人も、最悪の人も。

これからの人生は何が起こるかわからないのだ。本当に。


「成功者は、一度は必ず人生のどん底を経験する」

僕はずっとこの言葉に取り憑かれていたのかもしれない。

僕がこの物語の中で言う成功者とは、主に自ら起業し、経営者として莫大な富を得て成功した人のことを指しているが、経営以外の分野での成功者にも当てはまると思う。

今、経営に携わってない人にも、是非読んでほしい。というのも、経済的な問題を抱えている人や不安を抱いている人はたくさんいると思う。

タイトルにあるように、全財産を失っても、僕はなんとか生きている。

これを読んで少しでも多くの人に生きる勇気やヒントを得て欲しいと思っている。



僕達はずっと順風満帆だった。あくまで「過去形」である。
2011年に一部上場企業を脱サラして立ち上げたIT系の会社が上手く軌道に乗り、僕達はその翌年に結婚した。収入は毎年右肩上がりに増えていった。

大富豪にはほど遠いが、小金持ちにはなれた。欲しいものはほとんど手に入れた。

平日は会社がある恵比寿や自宅近くの麻布十番で毎晩酒肉三昧。特別な飲み会の前は2万円の歯のホワイトニングまでして臨み、連日の暴飲暴食で贅肉にならないように、45分5000円のパーソナルトレーニングジムに月8回通った。

港区の高級マンションに住み、僕は1本100万円のパネライ二本に飽きて200万円のHUBLOTを買った。
毎週のように六本木ヒルズにショッピングに行き、毎回10万円分の服を買う。試着も面倒なので、クローゼットにはサイズが合わない服や一度も着ていない服だらけだった。

「見栄を張る奴はカッコ悪い」と言いながら、自分を棚の、更に上の、神棚にまで上げる始末だ。

妻にはアメックスの家族用プラチナカードを渡し、何でも自由に使っていいと言っていた。妻はカルティエの指輪に時計、高級ハンドバッグをいつも身に付けていた。

そして極め付けは、毎週末のように露天風呂付きの1泊10万円もする温泉旅館に泊まり、平日の疲れを癒していた。

二人の子宝にも恵まれ、仕事も順調、夫婦仲も良く、幸せいっぱいだった。周りの人達から見てもそう映っていたはずだ。

にも関わらず、僕は「成功者は、一度は必ず人生のどん底を経験する」という得体の知れない恐怖に常にストレスを抱えていた。

僕はそれを紛らわすために、こんな派手な生活を加速させていったのかもしれない。

そして今、手に入れた服も時計もバッグも全て大黒屋に流れて、何も残っていない。

当然、港区にも住んでおらず、今は地方の県庁所在地でもない、人口2万人にも満たない田舎町に住んでいる。

借金もある。それも多額の。
金融機関、消費者金融、両親、友達、仕事仲間……借りられる金は、全て借り尽くした。
結果、僕は任意整理中、専業主婦の妻は自己破産中だ。もちろん会社も倒産した。

毎日のように死を覚悟する深い谷底を味わっている。

ただ、正直、借金よりも厄介なのは、まだまだ自分にはビジネスマンとして成功する可能性があると思っていることなのだ。新しいビジネスにもチャレンジしている。

その可能性や希望が断たれないように、僕はビクビクしながら日々生きている。

偉人や成功者達は「どん底まできたら後は這い上がるだけ」と言う。

谷底というのは狭くていつまでも居られるイメージはないが、僕らのいる谷底は果てしなく広がっているように思えて、「これから地獄が始まるのかもしれない」と恐怖しかなかった。

先にネタバラシをしておくが、今は強い光に向かってまた上に登り始めている。その途中だから、こうやって冷静に振り返れているわけだ。当時は経済的にも精神的にも絶望しかなく、自分のことなど到底書ける状態ではなかった。

「苦しい時が人生の上り坂、楽な時が人生の下り坂」

常連だった居酒屋のオヤジが言ってくれた言葉だ。まさか、この言葉の意味が今になってわかるようになるとは……。あの時、説教ばかりする居酒屋のオヤジを馬鹿にしていたが、起業したばかりで調子に乗っていた僕こそ、本物の馬鹿だった。

読んでいる人の中には「読みたいのはサクセスストーリーで、お前の自業自得の失敗話など読みたくもない」と思っている人もいるだろう。

かつての僕もそうだった。失敗話は耳に入れたくないから、全く聞かなかった。でも、そういう人こそ読むのをやめずに、是非最後まで読んでほしい。必ず何かの手助けになるはずだ。

言い訳がましいかもしれないが、僕達は決して身の丈に合わない生活をしていたわけではない。この生活に見合う収入は十分にあったからだ。そして、毎月貯蓄もしていた。だが、人生の下り坂にいる時はふとしたきっかけで坂道を転がり落ちてしまう。


ここまで読んで、今、人生の下り坂にいる、つまり、努力を怠って楽をしていると気づいた人に伝えたい。


「今ならまだ間に合う。今すぐにでも自分を変えた方がいい。」


今、人生の上り坂にいる、苦しみながらも努力していると気づいた人に伝えたい。


「上り坂の時に、下り坂になる準備をしておいた方がいい。準備とは恐怖でなく、覚悟である。それがあればどんな下り坂も乗り越えられる」


そして今、人生のどん底にいる人に伝えたい。


「死ぬほど辛くても、死んではいけない。死なないと誓おう。死にたくても死なないと決めた人は本当に強くなれる。どんなことだってやれるようになる。そしたら必ず奇跡が起こる」


今現在、上り坂の人にも、下り坂の人にも、どん底の人にも、人生のヒントになるような物語がこれから綴れたらと思っている。

未来は何も決まっていない。今、自分が何をするかで、全てが決まるのだ。



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