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⑭「どん底ホームレス社長が見た闇と光」

第6章 終わりは次へ進むためのステップ

さらなる試練

 ホームレスから立ち直ってからは、朝から夜中まで休み無しで人の何倍も働きました。ほぼ365日休み無しに働いていました。それもこれもまた兵庫県西宮市苦楽園に戻りたいという強い気持ちが強かったからです。8年後ぐらいには生活にも余裕が出来、貯金も人並み以上に出来るようになりました。

 そんな時です。友人から一本の電話が掛かってきます。「友人の会社が資金調達に困っているのだけど話しを聞いてもらえないか?」と。「直接、会って聞いてみましょう」と返事で後日、会うことになりました。場所は、大阪市内の喫茶店。話の詳細はこうです。「京都市のある場所を再開発することと、永久磁石モーターで公害のないエネルギーの開発をすることになったのですが、その資金が少し足りません。お借りしたお金は、すぐに返却する予定なので、銀行融資は考えていません」。最初は、あまり信用も出来ず、半信半疑で話を聞いていました。その後、何度か話し合いの場を持ち、すぐに返却されるお金なら少し貸してもいいかと甘い考えが出てきてしまったのです。

 その当時、私はかなりの貯金額がありましたので、自分自身に油断があったのでしょう。100万円を貸すことにしました。その時は、友人の紹介なので、あまり疑いもしていませんでした。

 しかし、1カ月経っても2カ月経っても返金する様子がありません。何度か催促したのですが、「もうすぐ返却出来るので、少し待って欲しい」との一点張りです。


怪しい会長

 本人がどうしようもなくなったのでしょう。会長という人物が出て来ました。会長は海外との仕事の為にフィリピンに住んでいるということでした。私は会長が話に入って来たので少しの安心感が生まれました。今、考えると馬鹿げたことなのですが、会長は「〇〇元首相と友人だ。〇〇会社の〇〇社長にお金を貸していた。莫大なゴールドを保有している。世界の通貨の価値は私の同意がなければ決まらない。北朝鮮拉致被害者は私のお金で日本に帰した。永久磁石モーターでスーパーカーを作った。電動自転車・EV車・タイの地下鉄は私が作った永久磁石モーターで走っている。10億円の水晶の仏像を持っている・・・等々」並び立てていました。何故、そんなことを信じてしまったのか、不思議です。きっと人を信じ込ませる詐欺師独特の洗脳方法があったのでしょう。

 すっかり信じ込んだ私は、会長の思うままに操られるようになりました。他にも永久磁石モーターに興味を持ち、出資する賛同者が増えて来ました。心のどこかに少しの不信感はありましたが、これだけの賛同者が出て来ることを嬉しく思った程でした。

 そんな時、ネットで会長が以前に100万の詐欺容疑で6年3カ月の有罪で刑務所に入っていたことを知りました。それを会長にぶつけてみると「あれは冤罪で私は何も悪いことをしていない。当時の検事と弁護士が結託して私を有罪に仕向けたことだ」とのことでした。その有罪に反論する会長のブログも読んでみましたが、私は、そちらの方を信じてしまったのでした。


嘘の株の一般公開

 それから半年が経った頃でしょうか。会長が突然、「会社の株を一般公開することになったので、出資してもらっているお金は株に変わります」と言って来たのです。これは嘘だろうと思いましたが、詳細を聞くと、証券会社の名前も出し、かなり具体的な内容で信憑性がありました。「一般公開すると今の出資金の何千倍もの価値になるから、その方が得ですよ」と言われて為、私もお金に目が眩んだのでしょう。

 その数日後、「株主総会を開催するので出資している人は出席してください。出席出来ない人は株主の権利はありません」との通知が来ました。今、思えば、それ自体あり得ないことです。出資しているのに、株主総会に出席しないと出資金は消えて戻って来ませんといっているのと同じです。

 私は、株主総会に出席しましたが、出資者の殆どの人は喜んでいました。私は複雑な思いをしていたものです。そこから本格的なお金のむしり取りが始まります。「株の一般公開をするのにお金が足りない」「フィリピンで借りていたお金を倍返ししないと、この話は無くなってしまう」というように事あるごとにお金を集めるようになって来たのです。「会長、世界を動かすだけのゴールドがあるのだったら、日本に送ってください」と私が言うと、いつも「ゴールドを日本に送ろうと思っても前科があるから途中で止められて送れない」との返事です。その辺りから怪しいと感じ始めました。

 しかし、他の出資者は、会長をまだ信じていましたが、その頃には、もう手遅れでした。私も、合計約2500万円を出資していたのです。その後、何度も株主総会を開催し、言い訳の上塗りで出資者を信じ込ませていたのです。今でも株が一般公開されるのを心待ちにしている人が多くいます。私たちが出資したお金は、いったいどこに消えたのか?調べた結果、会長が個人的な借入金の返済と自宅の改築費用に消えたことが分かって来ました。

 最初から、その為に私たちを利用してお金を集める魂胆だったのです。ゴールドも現金も持っていません。最初に大きなことを言っていましたが、全て嘘だったのです。100万円の詐欺で6年3カ月も刑務所に入ることはありません。余程、悪いことをしたのでしょう。会長本人は、悪いことをしたとは思っていません。騙される方が悪いという考えです。心根のない詐欺師とはそういうものなのです。


これからが戦い

 私は、もっと上を目指していたので、この詐欺は大きな障壁となりました。貯金で貯めたお金でマンションを購入しようと思っていましたし、事業も拡大しようと考えていた矢先ですから。全てが振り出しに戻りました。今でもその会社は大阪市内に存在します。しかし、仕事の実態がありません。会社が維持出来ているのも、騙された多くの人からの出資金で成り立っているのです。

 当然、弁護士にも相談しました。「それは典型的な詐欺師が使う手口だ。一回、持ち逃げ詐欺で痛い目に遭っているのに、どうして分からなかったのだ」と反対に指摘されました。返す言葉がありません。まだ救いなのは会長の居場所が分かっているということです。姿を眩ますと詐欺事件になるので、返金を引き延ばす口実を日々、考えているのでしょう。

 しかし、このまま放っておくつもりはありませんでした。私の汗の結晶の2500万円なのですから。その思いが通じたのか、会長は逮捕されました。

 私の第2の人生の為に貯めた貯金の半分を笑いながら持っていった詐欺師を許しません。それがまかり通るような社会ではいけないのです。私の戦いは、ホームレスから抜け出して終わりではありません。始まったばかりなのです。自分自身の夢を叶える為にも前を向いて人生に勝たないといけないのです。

 私は、これ以上お金を無くしたくないので、安全にお金を増やす方法を考えました。そこで始めたのが資産運用でした。今、残っている資金を人との関わりを持たずにいかに安全に増やすかが課題でした。困っている人を見るとつい助けたくなる自分の性格が分かったので、お金に関しては人との関わりを作りたくなかったのです。

 当然、お金を増やす為の勉強も1年間しました。手持ちの資金を少しずつ増やしていき、今では詐欺に遭って失った以上の金額になっています。よく「お金は天下の回りもの」と言われますが、消えていったお金がまたこうして何倍にもなって戻ってくるものです。

「こけたら立ちなはれ」とは、松下幸之助氏の言葉。今、その言葉の重みが分かった気がします。私も何度こけても立ち上がって、前を見つめて一歩一歩、進んでいきたいと思っています。最後に笑える人生の為にも!!

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