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⑪「どん底ホームレス社長が見た闇と光」

危険な会社に一人で乗り込む

次の案件は同じく大阪市で小さな鉄鋼所を経営していたE社長。D社長と同じ頃に、お手伝いさせていただいた案件です。これは、事件になってもおかしくないような事例でした。

E社長は仕事柄、土木や建築関係の人脈が豊富な人でした。しかしF興業という看板を上げている会社に、E社長の会社が借金の肩に乗っ取られようとしていたのです。その借金額は、約500万円。F興業という看板を上げていても、裏では違法な金貸しをしている、元ヤクザの組に関係していた人物が社長です。

E社長もD社長と同じく、警察や弁護士に相談に行きましたが、相手にされませんでした。なんと世の中は不条理なのだろう、と私の経験した持ち逃げ詐欺と重なり、E社長をこの苦しさから開放してあげたいという気持ちが湧いてきたのです。

といっても、今回は尋常な相手ではありません。F興業は、大きな裏社会と繋がりのある会社ですので、法的に解決していかなければなりません。毎晩、E社長の会社にも自宅にも、取立てに来ていましたので、E社長の家族は、かなりの恐怖感を抱いていて、精神的にもギリギリの状態のようでした。

この案件を解決するには少し強引な方法を使った方がいいと思い、E社長に取り交わした借用書を見せてもらいました。その借用書を手に私はE社長にこう話しました。「今から手順を説明します。F興業の行為は違法ですので、私がF興業に行って話をつけてきます。E社長は、近くの喫茶店で待っていてください。もし私が1時間経っても事務所から出てこなかったら警察に連絡してください」。「岸田さん、だ、大丈夫でしょうか?」とE社長は震える声で聞きました。

私は、和解書を3通作成し、乗り込む日を待ちました。いよいよその日、F興業の事務所近くの喫茶店でE社長と最後の打ち合わせと確認作業をしました。「それでは今から行ってきます」と言ったものの内心はドキドキです。

意を決して私は、F興業のドアを開けました。目に飛び込んできたのは、ヤクザ風の若い男性が2人。「どちらさん?」と聞いてきたので、「社長はいるか?」と聞き返すやいなや、男たちが飛びかかってきました。私は、一人の男性の腹を蹴り倒し、もう一人の男性の顔面を殴りつけました。すると奥から中年男性が出てきました。
「あんたが社長か?」
「そうやけど何か用か?」
「E社長の件で話があるんやけど、そいつらに手を出さんように言うてくれ」

私は正面にある大きな社長の机の前に立って話をしました。
「和解書を持って来たんやけど、目を通してくれ」。
その書類を見る社長の目がどんどん鋭く血走ってきます。
「こんな和解書、吞めるか!! こんなことして、お前どうなってもしらんで。覚悟できとんのか」と凄みます。
「ほぉ、そうかぁ。そんなこともあろうかと思って、いつでも弁護士と警察に連絡をできるようにしてあるんや。あんた、違法なことをしてるんやで。これを受け入れへんかったら逮捕や。組の上層部にも示しがつかんやろ!!」
私に凄まれて、その社長は、苦虫をかみ潰したような顔になっていました。

私が作成した和解書の内容はこうでした。
この借用書及び金銭賃借は無かったものとする。返済残高の返済は要求しない。E社長及び家族、会社には今後一切近寄らない。要求を受け入れられた場合、E社長は、F興業に対し事件として扱わない。
F興業の社長も違法なことをやっている認識がありますので、しぶしぶ3通の和解書に署名捺印をして1通を引き出しにしまいました。

F興業から出てきた私は、全身から力が抜けた感じでした。喫茶店で待っていたE社長に残りの2通の和解書を手渡し、これで一件落着です。なぜ、和解書が3通必要だったのか?1通はE社長の保管用、1通がF興業社長の保管用、もう1通は、何かあった時に警察への提出用だったのです。

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