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子育てに役立つ哲学~自己認識について


ナルキッススの自己愛

ナルシストという言葉は有名であるが、ナルキッススはご存じだろうか。

ナルキッススとは古代ギリシャの物語にでてくる16歳の若い少年である。とても美しい少年で多くの女性が恋したが誰も相手にしなかった。

しかしある日、泉の水面に映る美少年に恋をしてしまう。それは自分自身であり叶うはずもない恋であった。

彼は苦しみ、自分を責め続けた。私たちの使うナルシストはここからきている。そして彼は最後にはやつれ果てて亡くなってしまう。

しかし屍はなく、1輪の水仙の花があった。そのことから水仙はナルシスと言われている。花言葉は、「自己愛」である。

本来、鏡に映る自分は、鏡という媒介を通して知る「自分自身」である。鏡に映っているのは、紛れもなく自分自身。

ナルキッススは、自分自身ということを分かっていながらも、「他人」のように自分自身を愛してしまった。

現代の私たちとナルキッスス

これは、現実離れしたギリシャ神話ではない。私たち自身も鏡に映った自分を受け入れられないことはないだろうか。

惚れてしまうことまではなくても、認めたくないと抗うことはあるのではないか。

私自身の例でいうと、体型である。20代の頃の理想の体型にこだわり、現在の体型を受け入れられない。

鏡を見てはがっかりし、「これは私ではない。これから痩せるはずの姿が自分なのだ。」と思ってしまっている。

常にダイエットをしなくては!とストレスを溜め、ありとあらゆるダイエットを試している。

鏡の中の自分を受け入れられたなら、今の体型に似合う服を探す。無理なダイエットではなく、健康的な食事を心がけようなど、前向きな思考ができるはずだ。

もう1つ事例を出したい。若者の間では、写真加工アプリを使うのが当たり前になっているそうだ。

自分の目を大きくしたり、輪郭を変えたりまるで整形したかのように美しい自分の写真へと変えることができる。

しかし、鏡を見るとアプリで加工した自分の写真とは別の顔が映っている。本来の自分は鏡に映った自分のはずなのに受け入れられない。

アプリで加工した顔に近づきたいと整形を繰り返す若者が増えているそうだ。鏡に映る自分への認識を誤る恐ろしさが分かる。

哲学を生活に生かす

このような自己認識をあやまらないために気を付けるべきことは、鏡を通してみた自分を「ありのまま受け入れる。」ということだ。

良いとか悪いとかジャッジしない。

岩に生えている苔に対して「もう少し右に生えたほうがいいのでは?もう少しモサモサにならないのか?」とは言わないだろう。

苔をありのまま見るように、鏡の中の自分自身に対してもただ、ありのまま見て受け止めることだ。

そのうえで、「出来る範囲のことをすればいい。」というスタンスを持つことで心穏やかに過ごせるヒントになると考える。

ピグマリオンの彫刻(他)に対する自愛

もう一つ、自己愛と似ているけれど少し違うピグマリオンについて紹介したい。彼は、キプロス島の王であった。

ある日、白い象牙で美しい女性の彫刻を作り出した。その出来栄えは、まるで生きた女性のように美しかった。

ピグマリオンは、この彫刻に恋してしまう。そしてヴェヌスという神が見かねて彫刻の女性を人間にしてくれる。

ピグマリオンは、彫刻だった女性と結婚し、幸せに暮らすという物語だ。

ナルキッススは、自分自身を愛した。ピグマリオンの場合は、自分が作り出した制作物を愛した。

ピグマリオンにとって制作物は、本来「他」であるはずなのに、まるで「自分のもの」のように愛してしまった。

つまり、本来自分とは離れたもの「他」として尊重しなくてはならないものを、自分のものだとしてしまう。

子供はだれのもの?

具体的な例をあげる。我が子をかわいいと思う母親。子供はいつまでも自分のものだと思いたい。

「こんなにかわいいなら、ずっと赤ちゃんのままでいてほしい。」と思ったとしたらどうだろうか。

もしくは、子供の希望を聞かずに親の思い通りの学校に入ってほしいとか職業に就いてほしいと願う。

これはピグマリオンと同じではないだろうか。
子供は成長し、変わっていく。そして自分の意志がある。

それを尊重していかなくてはならないのに、いつまでも自分の所有物のように扱ってしまう。愛しているからこそ、家族という距離感だからこそ難しい問題である。

推し愛への反省と私の成長

実は、最近自分自身にも思い当たったことがある。私は藤井風さんというシンガーソングライターの大大大ファンである。

彼は、岡山県出身でデビュー当初は岡山弁交じりの話し方がとても初々しかった。

しかし、最近見たインタビュー(第15回CDショップ大賞2023)では、彼は流暢な標準語になっていた。都会の暮らしにも慣れたのだと本来は変化を喜ぶべきだ。しかし私は、話し方に関しては過去の藤井風さんの姿でいてほしいと望んでしまっている。

こういう考え方こそ、本来「他」として尊重すべきものを「自」としてとらえてしまっているということになるのである。

この話を知らなかったら、ずいぶんがっかりしてしまっていたかもしれない。しかし、ピグマリオンの考え方が分かっていれば、自分が間違っていると認識できる。

私は、彼がこれからもどんどん世界に羽ばたき洗練され変わっていく姿を「他」として尊重し、心から応援していくのだと思い直し、心晴れやかになった。

ギリシア神話の二人のお話。現代とは遠く離れたおとぎ話のように思っていた。しかし、哲学的に紐解いていくと、現代の悩みを解決するヒントを与えてくれるお話だということが分かる。

哲学はわかりにくい言葉もあるが、少しでも分かりやすく子育てや生活に役立つように情報発信していきたい。

参考文献
・白石克己 俵木浩太郎『教育哲学』玉川大学教育学部教育学科通信教育課程 2022年
・株式会社ストロボライト「水仙(スイセン)の花言葉|種類、特徴、色別の花言葉」『 LOVEGREEN 』(2023年3月6日確認)
https://lovegreen.net/languageofflower/p26065/
・ヘンレコード「Fujii Kaze」『Profile』(2023年3月6日確認)

みふねたかし『かわいいフリー素材集いらすとや』いらすとや 2023年3月6日確認
https://www.irasutoya.com/



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