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2017東大国語/第一問/解答解説

<本文理解>
出典は伊藤徹『芸術家たちの精神史一日本近代化を巡る哲学一』。要旨は以下の通り。
テクノロジーは問題解決の過程で新たな問題を作り出し、それをまた新たな技術開発によって解決しようとする(設問一)。その自己展開の中で、主体であったはずの人間は、テクノロジーが可能にした新たな事態に投げ込まれ、一方でテクノロジーは行為規範を指示しないから、個々に困難な倫理的判断を迫られる(設問二)。そこで、例えば「医療倫理」や「環境倫理」などが議論されるが、そうした倫理を包括的に基礎づける論理は存在しえない(設問三)。そういう意味で、我々は普段意識することのない自明性を当てにして行為を選ぶが、テクノロジーがもたらす新たな事態は、その自明性が普遍妥当性を欠く虚構に過ぎないことを露わにする。しかし、人間の生全体が虚構に支えられる以上、テクノロジーの際限ない展開は、新たな虚構(制度)の産出を強い、我々の生のあり方を根本から変えていくのである(設問四)。

<設問解説>
設問(一) 「科学技術の展開には、人間の営みでありながら、有無をいわせず人間をどこまでも牽引していく不気味なところがある」(傍線部ア)とはどういうことか、説明せよ。(60字程度)

内容説明問題。「科学技術の展開には(A)/人間の営みでありながら(B)/有無をいわせず…牽引していく不気味なところがある(C)」に分けて言い換える。Aは①段落の冒頭文を圧縮する。Bで「人間の主体性」を指摘し、それが「科学の自己展開に巻き込まれていき主体性を奪われる」という形でCの不気味さを表現する。

<GV解答例>
問題解決を目指す過程で新たな困難を生み、その克服を図ろうとする科学技術の自己展開に、主体であるはずの人間が巻き込まれるということ。(65字)

〈参考 東大現代文P解答例〉
人間の力で解決するための科学技術が問題を生み、技術開発を人間に強い続けるようであり、不安を覚えるということ。(54字)

<参考 S台解答例>
人間が問題を解決するための科学技術が新たに想定外の問題を生み、その解決のための発展を際限なく人間に強いてくるということ。(60字)

<参考 K塾解答例>
困難を人間の力で解決するための科学技術が問題を作り出し、その技術的な解決へと人間を駆り立てつつ、技術では扱えない難題さえ生み出すこと。(67字)

〈参考 T進解答例〉
問題解決のための営為たる科学技術自体が問題を生じ、新たな技術を生み出す展開には、人間の統御を超えて無限に、自律的に進展する奇怪さがあるということ。(73字)

設問(二) 「単なる道具としてニュートラルなものに留まりえない理由」(傍線部イ)とはどういうことか、説明せよ。(60字程度)

内容説明問題。「(テクノロジーは)単なる道具として(A)/ニュートラルなものに(B)/留まりえない(C)/理由」に分けて言い換える。「理由」を言い換えるために、傍線の直前「(テクノロジーは)「すべきこと」から離れているところに」も加えると、「XにY(の)理由がある」となるから、「XゆえにYだ」と言い換えられる(※「名詞」は「動きのある表現」に!)。
④段落のテクネーの2つの要素に注目して、ABをそれぞれ、「「できること」を増やす(もの)」「「すべきこと」から独立している(もの)」と捉え、Xの位置におく。C(…ない)は、⑥段落の一文目「テクノロジーは…行為者としての人間を放擲するのであり/…人間は…問われることもなかった問題に…決断せざるをえない行為者として直面する」を利用し(※ない・ある変換)、Yの位置におく。

<GV解答例>
行為の可能領域を広げる科学技術は、行為規範とは独立しているゆえに、新たな領域に直面した個々人に困難な倫理的判断を強いるということ。(65字)

〈参考 東大現代文P解答例〉
テクノロジーは是非の判断と無縁であり、行為の実行可能性を示すだけであるからこそ、実行の判断を人間に迫るということ。(57字)

<参考 S台解答例>
目的や価値とは独立に人間の可能性を広げるテクノロジーが、新たに人間の内に欲望を呼びさましその倫理的判断を迫るということ。(60字)

<参考 K塾解答例>
科学技術は行為の妥当性に囚われないために新たな可能性を次々に切り拓き、その行為に関して倫理の基準を新たに問う必要を生じさせるということ。(68字)

〈参考 T進解答例〉
テクノロジーにより新たに可能になった問題への倫理的決断を人に迫るので、是非の判断から独立した、単なる行為の可能性を示す知識とは言い難いということ。(73字)

設問(三) 「実践的判断が虚構的なものでしかないことは明らかだ」(傍線部ウ)とあるが、なぜそういえるのか、説明せよ。(60字程度)

理由説明問題。「実践的判断(S)」と「虚構的なものでしかない(G)」をつなぐ。傍線部が「そういう意味で」に導かれるので、その指示内容が理由の核となる。これと直後の具体例から「想像力/時と場合とによって/可変性」をピックして、「Sを基礎づける論理は/どれも想像の産物で/可変的で普遍妥当性を欠くから(→G)」となるが、これでは容易すぎ。
そこで、「そうした論理が、どうして、想像の産物にならざるをえないのか」という根本理由に遡及する。⑪段落の二文目「虚構とは…人間の…生全体に不可避的に関わる」を、この文章における公理(これ以上遡及できな前提)とみなし、これを根本理由の位置におく。

<GV解答例>
虚構が人間の生を支える以上、個々人の倫理的判断にいかなる論理的基準を見出そうとしても、普遍妥当性を欠いた作為性を消し去れないから。(65字)

〈参考 東大現代文P解答例〉
実践的判断は、いかなる論理によっても基礎づけられず、倫理的基準を支えているとされる概念自体が虚構性をもっているから。(58字)

<参考 S台解答例>
実践的判断に究極的な根拠はなく、どのような判断でも、それを導く論理を想像力によって恣意的に構築できてしまうから。(55字)

<参考 K塾解答例>
行為に関わる判断を最終的に決定する基準を支えるはずの概念自体が確固たるものでありえず、実際その判断は時代とともに変動しているから。(65字)

〈参考 T進解答例〉
科学技術が可能にした行為の実行を判断する際の倫理的決定基準を、基礎づける概念自体が、時に想像力の産物であるような、虚構性を帯びた不確かなものだから。(74字)

設問(四) 「テクノロジーは、人間的生のあり方を、その根本のところから変えてしまう」(傍線部エ)とはどういうことか、本文全体の論旨を踏まえた上で、100字以上120字以内で説明せよ。

内容説明型要約問題。基本的な手順は以下の通り。

1️⃣ 傍線部自体を簡単に言い換える。(解答の足場)
2️⃣ 「足場」につながる論旨を取捨し、構文を決定する。(アウトライン)
3️⃣ 必要な要素を全文からピックし、アウトラインを具体化する。(ディテール)

1️⃣ 傍線を一文にのばす。「そういう意味で/テクノロジーは/人間の生のありかたを、その根本のところから変えてしまう」。ここでは、傍線部を逐語的に言い換えるのではなく、「人間の生の変化の内実(X)」を問うていると考えられる。それを浮き彫りにする上で、テクノロジーが人間の生にどのような状況をもたらしたのかを明確にする必要がある。当然「そういう意味で」の指す内容をたどる。
2️⃣ 「そういう意味で」の直接指す内容は直前の2文であり、これまでの内容の要約にもなっている。加えて、設問(三)でも利用した同⑪段落の公理「虚構とは…生全体に…不可避的に関わる」も参考にして、この2文の要点をまとめると、「テクノロジーは/人間の生を基礎づけてきた虚構の虚構性を暴き/新たな虚構の産出を強いている」となる。その結果、人間の生が変化しているのだ。言葉の重なりを避けて、構文を以下のように定める。
「テクノロジーが(A)/人間の生を基礎づける自明性を切り崩し(B)/新たな虚構の産出を強いた結果(C)/人間の生はXとなった」。
3️⃣ 全文から。まず、設問(一)で考慮した「テクノロジーの自己展開」の要素をAの修飾におく。次に、設問(三)で考慮した要素「個々人の倫理的な判断を論理的に支えるものも虚構である」という内容をBCの部分に繰りこむ。
さて、肝心のXについてだが、傍線自体が本文の末尾にあり、直接的にXについて言及している部分はない。これまで積み重ねてきた前提から論理的にXを推論する必要がある。まず、テクノロジーの自己展開の中で、人間は主体性を奪われるのであったから(設問(一))、人間の生は「非主体的/受動的」なものになる(X1)。さらに、テクノロジーの自己展開で虚構性の更新が繰り返されるなら、人間の生は「虚構に依存せざるをえない以上」(公理)、「安定を欠いた/不安定な/見通しのききにくい」ものにならざるをえないだろう(X2)。

<GV解答例>
問題の産出と解決を自律的に展開する科学技術が従来の自明性を切り崩し、個々人の倫理的な判断基準を論理的に支える虚構が際限なく更新される中で、人間の生全体がそうした虚構に依存せざるをえない以上、人間は非主体的で不安定な生を強いられるということ。(120字)

〈参考 東大現代文P解答例〉
テクノロジーは困難を解決しつつ新たな問題を生み、行為の可能性を示すだけで是非の判断を示さない。ゆえにこれまで判断の必要がなかった行為の判断を人間に迫り、行為を導く基準として、人間の生全体に不可避的に関わる虚構の新たな産出を強いるということ。(120字)

<参考 S台解答例>
人間の思惑を超えて展開するテクノロジーが、これまで人間の生の支えとなってきた自然をも人為で操作可能なものにしその虚構性を露わにしたため、存在の危機に陥った人間は、変容する世界を生きるための新たな虚構を生み出し続けるしかなくなったということ。(120字)

<参考 K塾解答例>
かつては不可能であった行為を科学技術が可能にし、そこに是非を判断すべき領域が広がることで、それまで信じられていた倫理が虚構であることが露呈し、判断基準の虚構性を自覚しつつも、新たな難題に対処するための虚構を産出し続けざるを得なくなったこと。(120字)

〈参考 T進解答例〉
科学技術は自己展開し、是非の判断とは無縁に我々の後の可能性を拡げることで、従来の倫理的決定基準を支えた概念の虚構性が露呈して、無効化あるいは変質して、我々は判断を基礎づける新たな虚構の産出を迫られ、行為もまた改変を余儀なくされるということ。(120)

設問(五)
a耐性 b救済 c余儀

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