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静寂の中の異形~病院での金縛りの夜~


大部屋の狂騒曲

私はとある病気で長期入院をしていた。病院のベッドに横たわりながら、このベッドでは過去にいくつの人生が終わったのだろうと考えるだけで、薄ら寒い気持ちになるのだ。

当初、静かな空間を望んだ私は個室を希望していたが、空きはなく、やむを得ず大部屋に入ることになった。その部屋はまさに混沌としていた。様々な患者がひしめき合い、咳やくしゃみ、いびき、さらにテレビの大音量が混ざり合うカオスな空間。まさに地獄絵図であった。

私は看護師に懇願した。「個室が空いたら必ず教えてほしい」。あの騒乱からは逃げ出したいと。

静寂の二人部屋

ある日、待ち焦がれていた知らせが舞い込む。「個室ではないが、二人部屋が空いた」と。早速その部屋に移動すると、そこには誰の姿もなく、一人きりで使うこととなった。まぁ、すぐに相方がやって来るだろうと考えつつも、束の間の個室ライフを楽しもうと決めた。

ベッドに入り、天井を見つめながら思う。「このベッドでどんな最後を迎えた人々がいたのだろう?」。不謹慎だと分かっていても、好奇心が勝ってしまう。そんな思いを抱きながら、その日は眠りに落ちていった。

金縛りと謎の存在

突如、悪夢に襲われ、息苦しさに耐えかねて目が覚めた。だが、私の身体は金縛りにあっていた。そして違和感を覚え目を開けることができなかった。何か小さいものが私の胸の上に乗り、圧迫感を与えているのだ。

恐怖で震える私。もしこれが看護師さんだったら嬉しいのだが、そんなわけがない。これは猫ほどの重さしかない、小さな生き物...いや、生き物なのだろうか? 人形ほどの大きさで、私の胸元に鎮座しているのだ。

私は怖くて目を開けることができない。開けてしまったら、とんでもないものを目の当たりにしてしまいそうな予感がした。経験上、このような時は荒い呼吸を繰り返すと金縛りが解ける。私は必死の思いで荒い呼吸を繰り返した。

何度目かの呼吸とともに、金縛りが解ける。と同時に、胸に乗っていた"何か"も消えていた。恐る恐る目を開くと、そこには何もいない。安堵しつつも、得体の知れない何かに戦慄した。

疑念と好奇心

その後、退院するまで特別な出来事は起こらなかった。だが、疑問が残る。「あの時、私の胸に乗っていたのは何だったのか?」「もし目を開けていたら、何が見えたのだろう?」大した霊感など持っていない私には、何も見えなかった可能性もある。それでも知りたい衝動に駆られた。

この体験を通して、私は病棟という場所がただの治療施設ではないことに気づいた。そこには、人生の終わりを見届けてきた歴史があり、その痕跡はベッドのシーツの染みにさえ感じ取ることができる。そして時には、霊的な現象が起こることもあるようだ。

人は皆、いつかはこの世を去る。病床につき、最後の瞬間に直面することもあるだろう。その際に、何か別の存在を感じるとしても不思議ではないのかもしれない。病院という場所は、生と死が交錯する、摩訶不思議な場所なのだ。


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