旅先で救急搬送される!
旅先で救急搬送される。
もちろん初めての出来事だ。
今回は函館の最終日の早朝と言うか明け方に起きた「事件」である。
「事件」もしくは「事故」だ。
宿泊先のドミトリーの2段ベッドの上から転落した。
しかし、転落する瞬間のことは記憶にない。
記憶はお部屋の床に這いつくばって痛みと吐き気に耐えるところからだった。
微かに見える視界の中で床には転々と血が付いていた。
寝ていてベッドから落ちたとは思えない。
何故ならベッドの脇にキャリーケースを置いていたので、寝相が悪くて転落したならキャリーケースごとになるはずだけど、落ちたのはあたしだけなので、おそらくトイレに行こうとして階段を踏み外した可能性の方が高い。
落ちてからはほとんど目が開かない状態だし、喋ることすらままならない、言わば瀕死の状態だったので、細かい記憶はないのだけど、多分同室の人がスタッフを呼んでくれて、スタッフが救急車を呼んだと思われる。
この時点では何が起きたのか全くと言って良いくらいに把握できてなかった。
悪夢でも見ている気分だった。
やがて救急車が到着して、救急隊員が本部かどこかに連絡を入れている会話が聞こえてきたのだけど、「二十代の女性」と言っていたのを覚えている。
実年齢より若く見られがちだけど、そこまで若く見られたのは初めてだ。
喜んでいる場合じゃないけど。
ストレッチャーに載せられて救急車で病院に運ばれる。
搬送されたのは函館中央病院で、CTスキャンを受け、なんと頭蓋骨が骨折していることと右の耳から出血していること、鼓膜も少し裂けていること、強打した右肩は幸い骨折も脱臼もしていないことが判明した。
耳鼻科の医師が診察してくれて右の耳には綿を詰められる。
このあたりからようやく少し喋れるようになった。
それまでは問いかけに対して頷くか首を左右に振るしか無かった。
荷物はホテルのスタッフがおそらくまとめてくれたのだろう、コンテナに入れられていたので、着替えて会計を済ませ、時間外に開いている病院の前の薬局で薬をもらう。
タクシーを呼ぶつもりでいたけど、病院の目の前が市電の電停だったので、やって来た市電に乗ってホテルに戻る。
フロントで迷惑をかけたことを詫びて、カーペットを汚したのでクリーニング代を払うと言ったが、気になさらずにとのことで余計に申し訳なく思う。
一旦お部屋に戻り残っていた私物を引き取り、出血で固まった髪を洗うためにシャワーを浴びる。
ちょっと苦労するけど左手だけでなんとかこなせた。
ダイニングの冷蔵庫にキープしておいたヨーグルトとミルクティーで簡単な朝食を摂り、チェックアウトした。
とりあえず駅に向かい新幹線の切符を確保する。
帰りのエアドゥのチケットはキャンセルした。
気圧の変化が脳に響く可能性があるから止めた方が良いと医者に言われたからだ。
北海道新幹線なんて空いていると思ったら、夏休みのせいか窓際席は空いていなくて3列シートの通路側しか予約できなかった。
こんな事態なので窓側で景色を楽しむどころではないし、指定席が確保されただけでもありがたいと言うものだ。
3列シートの真ん中じゃなかっただけでも良しとしよう。
新函館北斗までの函館ライナーの出発まで2時間もあるけど、カフェに行く元気もないので、待合室のベンチでぼんやり待った。
函館に向かう時はまさかこんな事態になるとは夢にも思っていなかった。
人生は何があるかわからないものだ。
ここで今回の函館行きの理由について簡単に述べてみる。
今年の初めくらいから生まれ育った川崎を離れて地方に住みたいと思うようになった。
候補地のひとつが函館だったのだが、6月に訪れた道東道北の旅から帰宅してやっぱり住むなら北海道だと強く思うようになった。
北海道の中でも函館なら内地からのアクセスも良いし、旅で訪れるたびに増えた知り合いもいるし、北海道の中では比較的過ごしやすい天候でもあるし、このところ毎年訪れてますます好きになった街なので、住むしかいなと思いが募ったのだ。
先月終わりか今月初めに試しに開いたアパートの賃貸サイトで調べたら、住みたいエリアに良さそうな物件を見つけた。
問い合わせフォームを送ったら真っ先に反応のあったアパマンショップ函館柏木店のHさんがとても丁寧に対応してくださり、今回は物件の内見のために訪れたのだ。
メッセージのやり取りでもとても親切だったけど、実際にお会いしたら予想を裏切らない人柄の良さに、とても良い人に担当してもらって運が良かったと思った。
4件の物件を内見して好条件だった第一候補のアパートが家主の親戚からのオファーで先を越されてしまい、仕方なく第二候補の物件を契約することにして、保証会社と家主の審査を待つことになった。
翌日は函館で親しくなった方たちにお会いして移住することを報告していろいろと相談に乗ってもらった。移住する前から知り合いがいるのはなんと言っても心強い。それも函館を選んだ理由のひとつである。
そして最終日の明け方に悪夢の転落事故が発生する。
閑話休題。
帰宅した翌日に近所の耳鼻科で診てもらう。
大きな病院で検査した方が良いとのことで、稲城市立病院の脳神経外科に紹介状を書いてもらい、再びCTを撮る。
翌々日に肩の痛みをなんとかしようと整形外科で診てもらう。
ここではレントゲンを撮ってもらったが、肩の一番上のL字型の骨の関節がずれていることがわかり、湿布薬を処方してもらった。
そして本日、受傷してから4日目、ずっと続いた吐き気をなんとかしてもらおうと地元の内科を訪れたら、これはもう一度脳神経外科で診てもらった方が良いと、新百合ヶ丘総合病院に紹介状を書いてもらう。
こんな短期間に病院を回ったのも紹介状を書いてもらったのも人生初だ。
新百合ヶ丘総合病院の脳神経外科の先生は若い医師だったけど一番真剣に診てくれたと思う。
安静にしていることが一番なので、いっそ入院した方が良いと提案してくれたのだ。
確かに自宅にいれば全て自分でやらないとならないが、入院すれば余計なことは減るし、ベッドで寝ているしかない。
生命保険の入院特約も使えるし、ここで使わないといつ使えるかわからないくらいな健康体なので、来月になって入院することにした。
本来ならば8月は引越しのために荷物を整理したり断捨離に励む予定だったのだけど、とにかく体調が戻らないと出来ないのだから、少しでも早く復活するために無念の入院生活を楽しもうと思う。
入院は人生2回目である。
ちなみにアパートの審査は無事に通り9月1日付で契約することが決まった。
今は契約書が郵送されるのを待つ状態だ。
引越しは10月後半になるので2ヶ月分の函館の家賃は無駄になるけど、その程度の無駄は北海道に対するお布施だと思えば良い。
そんなわけで函館での天国と地獄を一遍に味わった事件の顛末の報告を終わりにしたいと思う。
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