見出し画像

物語を消費する私たち

昔からお酒が好きだった。
今も好きである。
この辺りは父親譲りなのだろう。
それなりに量を飲んでも大丈夫な
クチで、飲めば気持ちよくなり、
機嫌よくなる。

残念ながら、一時期飲み過ぎたせいで
肝臓の数値を悪化させてしまった。
自分の健康のため、数年前からは
週に多くて3回、できるだけ2回までに
制限することとしている。

回数を減らした分、
折角なので安酒はやめて、
飲みたいお酒を飲もう、
そう決めた。
それまでは、「コスパ」を考えて
焼酎を飲んだりしていたものだが、
最近は、元々好きだった日本酒を
いただくことが多い。

ここのところ、コロナの影響もあり
飲み会に行くこともなく、
これまで外で飲食していた「予算」を
家飲みに振り向けることが可能だ。
そんなわけで、ちょっと高くても
美味しい日本酒を買い求めて、
楽しむようにしている。

幸い、近所に
「日本名門酒会」
という看板を掲げる酒屋さんが
あり、こだわりの日本酒が所狭しと
並んでいる。
そこに毎週のように顔を出し、
今週はどれにしようかと物色する
のが今や「週課」となった。

ここ数週間は、「風の森」という
微発泡の日本酒を、続けざまに
酒米違いで楽しんできた。
奈良の油長酒造が造る、濃厚な
味わいのお酒である。


「無濾過無加水」
という言葉がラベルに書かれている
のが分かるだろうか。
「風の森」は、基本的に濾過をしない、
加水もしないというポリシーを貫いて
いる。
ウェブサイトから、そのポリシーを
語っている内容を一部引用する。

搾りたてのそのままの味わいをお客様にお届けしたいという想いから、ろ過も、上槽後の加水もしない、無濾過の生酒に特化してまいりました。生酒による、とろっとした豊かで滑らかな質感や、時間とともに経過してゆく繊細な味の変化がその最大の魅力です。

この「風の森」に限らず、私自身が
最近この「生酒」の旨さのとりこに
なっている。
なんともよい味わいなのだ。

そして、私自身はこれまでに4種類
楽しんできた、異なる酒米。
山田錦、雄町、露葉風、愛山。
まだ試していない秋津穂という種類
もある。
それぞれに異なる生い立ちや特長
などから、独特の風味を醸し出して
いるのである。

とはいえ、もしブラインドでテストを
したら、どのお酒がどの酒米なのか、
私自身が当てることは恐らく不可能に
違いない。
4種類飲んでみて、どれも非常に
美味しかったのは間違いないが、
味に特別な大きな差があったという
感触までは持てなかった。

それでも、次は別の酒米で醸した
ものを買ってみよう、そう思う
自分がいる。
それは、やはりそれぞれの酒米に
物語が存在し、それぞれの物語を
脳で味わっている
からだ。

ワインは、舌で味わうと同時に
脳で味わうもの
だ、ということが
言われると聞く。
産地の土壌や気候、シャトーの歴史、
ぶどうの品種とその特長、採れた
年がヴィンテージか否か・・・
様々な情報が「物語」として付加
され、物理的に舌で感じる味わいと
同時に、それら「物語」から感じる
味わいを脳が消費している
のだ。

日本酒にしても事情は同じ。
舌で感じる日本酒の旨みを味わい
つつ、付随する「物語」を併せて
消費することで、その美味しさが
一層際立つ
こととなる。

そう、私たちは、単純にモノだけを
消費しているのではなく、
モノに付随する物語をも一緒に消費
しているのだ。
だからこそ、モノづくりをする際に
いかに独特の物語性を付加するか、
よく考えながら進めるべきなのだ。

物語、ストーリーにして語ることで、
お客様の「食い付き」は俄然よくなる。
これは、ワインや日本酒に限らず、
普遍的に当てはまること。
お客様に対して、モノを渡すだけで
なく、常に「物語性」を意識して
対応することを肝に銘じておきたい。



己に磨きをかけるための投資に回させていただき、よりよい記事を創作し続けるべく精進致します。