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ベネフィットは五感で感じられるものがよい

Tangibleという単語がある。
タンジブル。
アルクの英辞郎によれば、

触れる、触れられる
触って分かる、触知できる
理解できる、明らかな
実際の、具体的な
《法律》有形の、有体の

という意味だ。

マーケティングの世界で、この単語が
時折出て来るのだが、それはモノや
サービスがもたらすベネフィット、
日本語に直すと便益、について語る
ときである。
ベネフィットがタンジブルか否か。
ベタに訳すと、便益が分かりやすいか
否か、そんなところだ。
もう少し言えば、五感で感じやすいか
否か。

ベネフィットという言葉がまた少々
分かりにくい言葉なので、ピンと
来ないかもしれない。
平たく言うと、お客様にとっての
「嬉しいこと」
「問題を解決してくれること」
がベネフィットと考えればよい。

よく引き合いに出されるのが、
ドリルという商品。
ドリルを買い求めるお客様は、
そのドリル自体を欲しているわけ
ではない。
そのドリルであけることのできる
穴が欲しいのだ。
この場合のベネフィットは、穴を
あけること、あけられること。

メーカー側は、そんな至極当然のこと
を忘れて、ドリルを一生懸命に売ろう
とする。
本当に売るべきは、穴なのだ。
あるいは穴をあける能力なのだ。
だから、どんな穴が欲しいのか、
どんな風にあけられると嬉しいか、
そういうポイントに注力しなければ
ならないのに、ついつい
「このドリルは回転数が速い」
(スペック自慢)
「1,000回使っても切れ味抜群」
(同じくスペック自慢)
「今なら30%オフ!」
(在庫過多だから早くさばきたい)
といったように、自分の側の都合を
押し付けるような売り方になりがち
だったりする。
そういう態度を、レビットという著名な
経営学者は「マーケティング近視眼」
と呼んで戒めた。

ベネフィットとは、あくまでもお客様
の側にとって何が嬉しいのか、という
こと。
売る側の事情は二の次、三の次、その
ような意識で臨まねば、どんなにモノ
が良かろうと、商売がうまく行くかは
かなり厳しいと思われる。

ここで冒頭の話に戻ってくるのだが、
ベネフィットは出来るだけタンジブル
な方が良い。
逆に言うと、タンジブルでないものは
お客様がピンと来ない、がゆえに大層
売りにくいこととなる。

分かりやすい例で言うと、洗顔料。
日本人は特に、顔にせよ体にせよ、
洗浄料が泡立つのがことのほかお好き。
界面活性剤という、泡立ちの元になって
いる物質を沢山入れれば、泡立ちもよく
なるのだが、界面活性剤は入れすぎると
皮膚から油分を多く取り去り過ぎると
いう問題があったり、生分解性があまり
高くないものが多く環境にやさしくない
という印象が強かったりする。

実は、界面活性剤の量が多くない、
あるいはそもそも泡立たない種類の
活性剤を使って作った、泡立たない
洗浄料というのも存在しており、
それはそれでしっかりと汚れを
落としてくれる。
しかし、消費者は泡立つものにあまりに
も慣れ過ぎていて、泡立たないものは
汚れが取れないのではないか、そんな
感覚、感触を持っている人が多くいる
ために、泡立たない洗浄料は大変に
苦戦する傾向にある。

実際、皮膚の汚れの落ち具合ならまだ
しも、除菌できたかどうかなどは目で
見たところではっきり分からない。
つまり、ちっともタンジブルでない。
それでも、泡がモコモコと立って、それ
で洗っていると、何となく汚れが普段
より落ちた気がする、除菌も出来た気が
する、そんな感覚を消費者に感じさせる
効果が「泡」にある。
「泡」が、ベネフィットをタンジブルに
しているのである。

商品を開発するときは、お客様にとって
のベネフィットがタンジブルかどうか、
五感で感じやすい、分かりやすいものに
なっているかどうかに注意を払うことが
望ましい。


己に磨きをかけるための投資に回させていただき、よりよい記事を創作し続けるべく精進致します。