「漢方薬が新型コロナウイルス感染症の治療に使えます」 開業医のひとりごと 秋山一誠 2021年6月号
#開業医のひとりごと
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#秋山一誠 (あきやまかずせい) 文
サンパウロではコロナ感染者が減少傾向にあるようで、このコラムの24人の読者様は若干精神的なプレッシャーが低減した生活ができているのでしょうか? まあ、減少といっても、ブラジルでの1日の死者が4000人から2000人程度になっているので、半減といえば間違っていませんが、それでもブラジル型変異株が蔓延しだした1月頃の倍です。全然油断はできません。
何回もひとりごとしているように、遺伝子情報というのは複製する度に変質する可能性があります。まさに遺伝子情報そのものでしかないウイルスも(註1)増殖する過程でこの状態がおこり、いわゆる変異株という元から変化したモノができてくるわけです(註2)。今世界中でコロナウイルスが爆発的に増殖していますので、変異する機会も爆発的に増えています。このため、次々と変異株が現れ、それは感染者数が多い場所でおこるのですね。この状況は増殖の回数が減らないと終息しません。
『ブラジルは意外にも世界的にみてワクチン接種が進んでいるので、世の中は「自分はワクチン受けたからもう普通の生活になるんだ」みたいな雰囲気も見られる。でも、2回接種が済んだのが人口の1割強程度ではまだまだウイルスが蔓延した状態でしょ。また、世界で流通しているコロナワクチン総量の75%がたった10か国に集中している現状を見ると、コロナ禍はまだまだ続くと考えるのが妥当ではないですかね?(註3)』
したがって、コロナ感染症(COVID-19)の対応はこれからも必要です。先月から治療薬についてのひとりごとをしており、今月は「既に承認されているがあまり話題に上がらない治療薬」、漢方薬に焦点をあててみます。なぜ既に承認されているか簡単に説明すると、COVID-19の症状の一つである発熱は「急性の熱性の疾患」にあたり、適用になるからです。感染症の対策や治療は人類史においていつも重要な事項であったことは疑いがないでしょう。医療の発展の過程で感染症は常に大きな存在であり、これは西洋医学でも東洋医学でも同じだと言えます。東洋医学の場合、2000年前に書かれ現在でも東洋医学を理解するのに重要な『黄帝内径』に疫病に対する対策が記載されています。一つは身体の気を充実させ、外因性の病原体の侵入に対抗する、もう一つが感染源を回避する、です。
『後者は正に現在のコロナ感染防疫の三つの柱、密を避ける・手洗いと消毒・マスク使用、じゃあないですか! 2000年前にはもう書いてあったのだ』
「気の充実」または「気を増す」ことは現代語で言うと生体防御機能を増すことを示します。言うまでもなく、十分な睡眠と休息、正しい食事、適度な運動、ストレスの少ない生活により、各自が持っている防御機能を維持することから始まります(註4)。この防御機能とは免疫機能とも言い換えられます。既に科学的な研究で判明している漢方薬の作用機序の一つに免疫活性化物質であるサイトカインの一種のインターフェロンαが漢方補剤を摂取することによって産生しやすくなる結果があります。補剤と分類される漢方薬を使用することで、免疫機能を高めることができるわけです。このタイプの漢方薬はまだ感染がおこっていない状況、つまり予防に役立ちます。
一端感染症が発症して症状がでると治療用の漢方薬が有用です。COVID-19は重症化しないのが最重要事項なので、感染徴候を見逃さないのが大事です。漢方医学ではいわゆる正常から外れたら治療可能なので、ちょっとした自覚症状でもアプローチできます(註5)。広義でいえば、COVID-19は風邪の一種なので(註6、7)、一般的に風邪の治療に使用される漢方薬が有効です。
『感染症の臨床経過は、体内に入ったウイルスの増殖スピードと生体防御機能の競争でどちらが優位になるかに左右される。重篤化すると圧倒的に致死率が高くなるCOVID-19はとにかく軽症患者を重症化させないことに尽きる』
漢方薬の処方は先月のひとりごとで示した、西洋医学の「診断名と治療薬の縛りがない」かわり、個々の体質、状態、状況により判断されるので、ここでは「なになに湯」を服用したらコロナ対策に良いとは書きません(註8)。つまり、個別の診断が重要です。診察を受けてください。
『予防や治療以外にCOVID-19関連疾患では、「COVID-19後遺症」や「コロナ禍の生活の不安や恐怖」の診療にも有用です』
註1:2021年1月のひとりごと、「汚染、感染、伝染のちがいは?」もご覧ください。
註2:生物の細胞の場合、こういった変質が癌細胞になる。
註3:完全な鎖国でもしない限り、コロナ感染は防げない。島国であり、防疫が完璧とされていた台湾でも、防疫の例外とされている人物(航空機のパイロット)が島内に持ち込んだウイルスで再度感染拡大しているのが良い例。
註4:意外とこれらが忘れがちで、薬やサプリを外部から取り入れて防御機能を維持しようとすることが多いのでは? 例えば、正しい食事をしていれば、青汁ドリンクなど購入して摂らなくても良いでしょ?
註5:反面、西洋医学では検査などで数値や画像の異常がないと診断がつかない。
註6:風邪の正式名称は「風邪症候群(かぜしょうこうぐん)」であり、上気道(鼻腔、咽頭)におこる感染症で、原因微生物の9割方はウイルスです。ライノウイルス、コロナウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスなどが主ですが、200種類以上あるので、あるウイルスに感染し免疫ができても何回も風邪をひくのです。インフルエンザウイルス感染症も厳密に言えば風邪の一種ですが、症状が強いのと致死率が高いので”流行性感冒”と呼ばれ、別扱いされます。
註7:ヒトに風邪をおこすコロナウイルスが既に存在するので、「COVID-19はただの風邪だ」といった発言が出るのですな。
註8:いろんなメディアに登場して有名な「清肺排毒湯」がありますが、感染症初期の漢方薬ではありませんのでご注意ください。
診療所のホームページにブラジル・サンパウロの現状をコメントした文章を記載してますので、併せてご覧いただければ幸いです。
秋山 一誠 (あきやまかずせい)
サンパウロで開業(一般内科、漢方内科、予防医学科)。この連載に関するお問い合わせ、ご意見は hitorigoto@kazusei.med.br までどうぞ。診療所のホームページ www.akiyama.med.br では過去の「開業医のひとりごと」を閲覧いただけます。
月刊ピンドラーマ2021年6月号
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