マギノ・アウヴェス　クラッキ列伝　第155回　下薗昌記　月刊ピンドラーマ2022年9月号

マギノ・アウヴェス

現役のサッカー選手としてその男を上回るゴールを決めているのはクリスティアーノ・ロナウドやメッシらわずか5人のみ。つい先日まで現役では世界で6番目にゴールを奪っている男として知られたゴールマシーンが、46歳でスパイクを脱いだ。

ブラジル代表としてコンフェデレーションズカップにも出場し、フルミネンセなどでも活躍したマギノ・アウヴェス、その人である。

1976年、バイア州のアポラーで生まれたマギノは、やはり貧困階級から右足一本で這い上がり、サッカー選手として成功を収めた選手である。

2007年、マギノは生まれ故郷で「マギノ・アウヴェス財団」を立ち上げ、社会貢献に取り組んでいるが、かつてJリーグのガンバ大阪に所属していた時、マギノにその思いを聞いたことがある。

「僕は小さい頃から勉強やサッカーを続けるのが困難だった。僕と似たような貧しい境遇の子どもを助けたいんだ」

バイア州の小さなクラブ、ラトランスでキャリアをスタートさせたマギノだが、最初のハイライトはフルミネンセ時代のこと。フルミネンセのサポーターは、マギノのことを「マギナータ（大富豪）」と呼んだ。

きっかけは今は存在しない大会だが、2000年のジョアン・アベランジェ杯の対サンタクルース戦だった。マラカナンスタジアムで6対1の圧勝を飾ったフルミネンセだがマギノは実に5得点。試合後、サポーターは「ああ、マグナータ。ああ、マグナータ」とコールを繰り返して賛辞を送ったが、その後ブラジルではどのクラブでもマギナータの愛称で呼ばれている。

細身の体ながら、鞭のようにしなる足の振りから放たれるシュートは強烈かつ高精度を誇っていた。

フルミネンセ時代には天才、ロマーリオとも2トップを形成し、2000年にはプラカール誌が選出するベストイレブンにも選ばれたマギノが2001年のコンフェデレーションズカップでカナリアイエローのシャツを着たのは決して不思議ではない。

Jリーグでも2006年には元ブラジル代表のワシントンともにも得点王に輝くなど、地球の反対側でも確かな足跡を残している。

2014年にはセアラーで年間37得点をゲットし、ブラジルサッカー界でその年の公式戦で最もゴールを決めた選手に送られる「アルトゥール・フリーデンライヒ賞」を受賞。セアラーでは通算103得点を決め、クラブ史上6位の得点数を決め、アイドルの一人として愛されていた。

2021年、セアラー州の小さなクラブ、カウカイアでプレーしたのを最後にプレーしていなかったマギノは7月28日に現役を退くことを発表した。

「全ての事柄にはサイクルがある。僕のキャリアには終わりが来た。もう次なるサイクルに向けての準備はできている」

ゴールマシーンとして稼働し続けて来たサッカー人生にピリオドを打ち、第二の人生では助言者やモチベーションを高める講演などを行う予定のマギノ。

公式戦783試合、368得点ーー。残した数字が、その偉大さを雄弁に物語る。

下薗昌記（しもぞのまさき）
大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科を卒業後、全国紙記者を経て、2002年にブラジルに「サッカー移住」。
約4年間で南米各国で400を超える試合を取材し、全国紙やサッカー専門誌などで執筆する。
現在は大阪を拠点にJリーグのブラジル人選手・監督を取材している。

月刊ピンドラーマ2022年9月号
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