「若い人の順番がきました 」 開業医のひとりごと 秋山一誠 2021年9月号
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#秋山一誠 (あきやまかずせい) 文
去年の8月に執筆したひとりごとには、「もう5か月連続でコロナの話なのだが、またコロナの話である」ことを謝っていました。で、それ以降止めたかというと、ずっとコロナに関する話題を毎月提供してきました(註1)。このコラムの24人の読者様も飽きてきたのではないかと心配しています。実際、この筆者は大分飽きてきます。診療所のホームページのコロナ現状のページも4月を最後に更新できてませんね。しかしコロナ禍は我々人生に多大な影響を起こし、実際の生活にも毎日何かおこり、ニュースが絶えません。このところ、ワクチン接種が当地でも日本でも進み、現時点では18歳以下のワクチン接種が焦点になっています。この件で診療所でも問い合わせがあるので、若い世代のワクチン接種について今月は考えていきます。
サンパウロ州ではコロナワクチン接種事業が進んでおり、18歳以上人口の約98%、全人口の約75%が1回以上接種を済ませています(2021/8/25現在)。8月中旬より18歳以下が接種対象(註2)となりました。日本と同様に、「子供には接種させない」といった発言は散見しますが、例外的と言えるほど少ないのではないかと思われます。成人以下のコロナワクチン接種はワクチン開発時期より課題に挙がっていました。今年に入りインドで初めて確認されたデルタ株が世界中で猛威を振るうようになりました。この変異株は去年出回っていたコロナウイルスとは違い、若齢層が感染・重症化しやすい。そのため、できるだけ低年齢層にワクチン接種を広めるのが急務になっているわけです。
『コロナワクチン接種事業は各地で行われ、半年以上の実績が積み上げられてきた。ここまでで判明しているのは、色んな変異株がある中、各社より販売されているワクチンは感染や死亡を100%防ぐことはできないが、明らかに重症化を防ぐ効果はあるという事実だな。いわゆる防御率はワクチンの銘柄、人種、接種事業方法などの要因で変化があるので一律の成績ではないが、この事実は反論のしようがないでしょ。コロナ禍を終息するには大変有用な手立てであることを実証したと言える』
ここでも以前ひとりごとしたとおり、コロナワクチンは市販までのプロセス、つまり開発や認可などは通常の方法ではおこなわれなかったため、スタート時点から疑問点が多いものでした。医学的に考察すると一番の問題点は長期的な安全性の検証ができていないところです。それには時間がかかりますがその時間がなかったという非常に単純な理由からですね。今回初めて使用されているmRNAワクチン(ファイザー製とモデルナ製)を含め、理論的には問題ないであろうと考えられますが、理論と現実は異なることがあったりするわけです。既に一般的に流通し、有用性と安全性が検証されているワクチン(例:麻疹ワクチン)にでも疑問を唱えるワクチン反対派がいますが、それこそ検証が不十分なコロナワクチンの場合はデマやフェイクニュースの最適の標的になります。コロナ禍の場合、始まった当初より政治的、権力的、経済的、価値観的な抗争に利用されたというか、巻き込まれましたので、正しい情報を選択するのがとても難しいと思います。日本の若者の間で流通している反ワクチンの情報は次のようなものがあるようです(註3)。
• 接種したら妊娠できなくなる、流産する、妊娠できにくくなる
• 発熱が怖い、大きく腫れる、注射が痛い
• 注射が嫌い
• データが少なすぎる、いろいろ怪しすぎる、短時間でできたワクチンなんか信用できない
• 遺伝子が組み変わるらしい
• 人体実験に使われている
• 接種したら生命保険が無効になるらしい
• アレルギーとかある人は大丈夫かわからない
• 打っても感染したり、死亡したりする人もいる、ワクチンで死にたくない
• 接種して死亡した人が100人以上いるらしい
• コロナ感染していないのにワクチン打つ意味がわからない
• 自己責任で接種を決めるのは無理
ブラジルでの反ワクチンの情報はこのような理由ではなく、どちらかと言うと、日本よりもう少し哲学的、価値観的であるように見受けられます。
• 宗教的な理由でワクチンは何であっても打たない
• 人工的な物質は自分の体内には入れない
• ワクチンは(どれでも)自閉症をおこす
• 自己決定権があり、政府が言っているとおりにはしない
『サンパウロ州の大人人口のほとんどが(1回は)接種しているように、反対派は極少数だな。なんか日本とは対照的だなあ。ワクチン接種に対する市民の意識は社会学や公衆衛生学の研究対象になるほどで、単純ではない。理由だけみると、ブラジルの方が意識高目に見えるけど、数からいくとブラジルの場合はあまり考えないで打ってると言えるかも。ブラジル人がコロナワクチン接種する理由は冗談のような次の3つがあるそうだ。
①ブラジル人はタダの物が好き
②ブラジル人は他の人がやっている事が気になり、自分もしたがる
③ブラジル人は(接種した)写真をSNSに投稿して“いいね”をもらう機会は逃さない
これ結構本当だと思うぞ。日本人は不安ばかりが目立つなあ』
宗教的や哲学的な理由でどうしても接種したくない方や、既往歴のため摂取できない方はともかく、ほとんどの反対理由は「説明不足」だと思います。なにが足りないかというと、
①コロナワクチンとはどういったものか、どのような工程で製造され、どのように認可されたのか
②ワクチンの利点と問題点の詳しい説明
③個人の判断で接種する場合と社会状態の判断で接種する場合の違い
ブラジルの方がこれらの説明が丁寧にされているようです。しかし、一般市民のリテラシーはあまり高くないので、これだけほとんどの人が接種しているのは、なんといってもコロナ死亡者が圧倒的に多く、必ず自分のまわりにコロナで死亡した人がいるためだと思ってます。反面、日本では副反応の怖さばかりを報道して不安をあおり、それを受けるかどうかは個人の判断であると政府は突き放すのが、これだけワクチンを受けたくないニュースが出る理由だと考えます。日本の場合は結局同調圧力で接種しているように見えます。
『「みんなが正常な生活に戻るために(ある程度リスクがあるにしても)各自ができる措置である」という説明が足りない。また、コロナ禍であるにもかかわらず、GoToや五輪のようなイベントをして矛盾する情報を発信するからさらに判断が混乱する。医師として現時点でいえることは、「人と接触しない」方法(密を避けるですな)が上手くいかなかった(唯一その方法が上手くいった(と言ってる)所は中国、ほんまかいな)ので、ワクチンでコロナ禍を終息するしか方法がないのでは?』
18歳以下の方の保護者は悩む所が多いと思います。確かに不安要素の多いワクチン接種かもしれませんが、一つ判明しているのは、「無症状感染でも後遺症がでることが多い」という事実です。痛いだの、熱がでるだの、といったような理由で接種しない方向の保護者はこの事実を是非考慮していただきたいです。あるいは既往歴などの考察もあると思いますので、疑問がある方はかかりつけ医に相談することが大事です。
『人間はまだおこってないこと(コロナ感染、後遺症)より、やっておこること(痛い、発熱する)を重要視するものだ。コロナワクチンの晩期副反応のリスクがコロナ感染症のリスクより大きく見えるのだな…』
註1:今年の4月だけ例外、物事の選択の話でした。
註2:8月29日までは有既往歴および妊婦、30日より一般の18歳以下。
註3:若者のHYさんの調査です、ありがとう!
診療所のホームページにブラジル・サンパウロの現状をコメントした文章を記載してますので、併せてご覧いただければ幸いです。
秋山 一誠 (あきやまかずせい)
サンパウロで開業(一般内科、漢方内科、予防医学科)。
この連載に関するお問い合わせ、ご意見は hitorigoto@kazusei.med.br までどうぞ。
診療所のホームページ www.akiyama.med.br では過去の「開業医のひとりごと」を閲覧いただけます。
月刊ピンドラーマ2021年9月号
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