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5000字以下の掌編を書くメソッド:前編

あなたが今「こんなお話を書きたい」という願いを抱いているとします。

というか、小説を書きたいと思い立つ人ならば、お父さんお母さんその他保護者の皆さん……に、見せかねる構想ノートのひとつやふたつ、隠し持っているんじゃないでしょうか?

きっとそうだ。そうだろブラザー? ね? 有ると言っておくれよブラザー。
……そういう事にして一旦話を進めます。

(「マジに無いんだが!?」……という人は自分の好きな書籍や映像作品をジャンル問わず思い返して、そのコンテンツのどんな所が好きかをちょこちょこっとメモれば充分に用をなします。大丈夫!)

よし。
それでは構想ノートなり妄想ツイートなりを見返して、今の気分にフィットする「これは」というネタを見つけて、それについて書きましょう。

以上おしまい。

これにて小説が書けました!おめでとう!おめでとう!

ここで「そうだよな!」と納得した人は、以下の文言を読む必要はあんまり無いです。
さっそく実践してみましょう。
ようこそ小説書きの世界へ!

「何を言ってるんだ!!?」と思った人、たいへん失礼いたしました。
上記は本稿のエッセンスそのものではありますが、あまりにも凝集しているのは確かなので、もう少し言葉を尽くした解説を以下に書きつづっております。

よろしければ目を通してみてくださいね。

5,000字が何文字あるのか、君は言えるかい?

この記事で取り扱うのは、おおよそ3,000~5,000文字の範囲に収まる長さの物語です。
原稿用紙に換算すると8~13枚前後にあたるかと思います。

大ざっぱな分類ですと、Web小説では慣例的に「短編」と、紙ベースの基準ですと「掌編」と呼ばれることが多いようです。
(本記事では、以後は前述した規模感の小説を「掌編」の呼称で統一します)

端的に述べて、ごく短い話ですし、かなり限られた尺で展開させる必要もあります。

ですが、この短さにも利点があります。

・書き始めから書き終わりまでのテンション管理が比較的容易い
・完成させるという経験を短いスパンで数多くこなせる

……などです。

本稿は掌編執筆のすすめとなりますが、この後に述べる内容が創作における正道であるか、というと実のところ微妙な部分はあります。

例えば『商業デビューを視野に入れる』、『特定のジャンルでトップ層の書き手になる』などの目標には力不足というか、ここで述べているのとはまた違った方法論が必要になって来るでしょう。

ともあれ、このようなやり口も有るのだな、と参考程度に思っていただければ筆者としては嬉しいです。

お伝えしたいのはただ一つ。

自分のイマジネーションを他者に通じる形で脳みその外に出すのは、とても楽しいことですよ!

――これに尽きます。

段取り意識を捨てろ

まず、もっとも重要なポイントとして、これから書く話ではワンアイディアのみを軸にストーリーを組み立てることを、強くお勧めします。

「このアイデアは導入向きだから」、「こういうクライマックスに繋げるためには布石をここやあそこに置く必要が」……などの言い分は有ると思います。

ですが、そうした前後のすべてを書ききるには5,000字以内という字数はあまりに短く、尺は限られています。

また、それが狙いでもあるのです。

と、申しますのも、何よりも重要な点として、執筆に不慣れな人が、頭の中の長大な構想のすべてを紙/データ上に書き表そうという試みは、高い確率で途中で息切れするんです……。

何故か? 初学者という存在は、「めて・ぶ・」という表記のとおり、自分自身の最適な活動ペースと集中力の持続時間を知らないままに、当該する分野に初挑戦するものだからです。
これは(ごく少数の例外的な経歴の持ち主以外は)仕様上避け得ないことです。

ゴールがどれほど遠いかも定かではないマラソンにぶっつけ本番で挑戦してみたらどうなるでしょう?
殆ど全員が完走できないまま終わってしまうでしょうし、最悪、どこかの地点で倒れてしまいます。

上記の例えを、再び小説執筆のケースに落とし込みます。

・どこまで書けばエンドマークが付けられるか、どんなマイルストーンを置くべきか、それら全てを手探りで書き続けなければならない
・多くの場合、文章のボリュームが多ければ多いほど、管理すべき情報は増大する
・結果、いちどきに把握すべき情報の負荷は際限なく上昇していく

……という状況となるでしょうか。

このハードルを飛び越せる適性の持ち主も確かに存在します。
ですがそうした人々は、全体からしたらごくごく少数の稀有な資質の持ち主です。
多くのケースでは、書き手は順当に挫折します。結果、あなたの書きかけのテキストファイルはハードディスクとクラウドの狭間を半永久的に漂う結果に収束するのです……。

(※とはいえ、短期的な挫折体験そのものを即座に悪と断じる意図は一切ありません。
ただ、この記事の趣旨が書くにあたっての段差を乗り越え、自らのアウトプットを外気に触れさせるのを目指すものなので、それらの回避方法をしたためているという次第です)

長い話をキチッと終わらせるためには、書く力の、いわば総合的な地力が問われます。

ですので、まずは負荷の軽い形から入って小さな成功体験を積むところから始めませんか?
その上で楽しい趣味として継続したり、更なるステップアップを目指すのはいかがでしょう。

という提案のもと、この記事を執筆した次第です。

具体的にはどうするのだ

基本は、ワンシーンでの完結を心がけます。

具体的には、主なストーリー進行は同一のシーン内に収めることをお勧めします。
(この場合の「同一のシーン」とは、同一の舞台、同じ時間軸、程度の意味合いです)

というのも、シーンとシーンのつなぎって、一定の慣れとコツが要る事柄なのです。

不慣れなうちは「できなくても絶望するようなことじゃない」くらいに思っとくので問題ありません。

「絶対に書くべき」というような差し迫った必要がない、なおかつ迷いやすい要素は積極的に省いて行く気概でかかりましょう。
むしろ、そうするべきです。

基本事項の振り返りをします。
ワンアイディア、なおかつワンシーンで話を転がしていく。
これが基本となります。

字数に対する尺感覚は書き手によってかなり左右されるのですが、それでもこの原則を踏まえて書けば、よほどトリッキーなことをしなければ3,000字から5,000字の範囲に概ね収まるはずです。

「本当に描きたいシーン」がある?すぐ書け

では、実践編に入ります。

3,000字下限というのは、

・キャラクターを動かし
・一定の物語を初めて
・そして終わらせる

……という一連をこなすにはたいへんタイトな文字数設定です。

導入シーンを入れて、つなぎの日常描写を挟みつつ伏線を張ってクライマックスへ……あっプロットポイントも何とかしなきゃ!
とかやってると「あっ」という間に尺を使い果たしてしまいます。

結果、序盤の強敵の撃破シーンはおろか、ヒロインとのラブの予感すら
まともに描写する余地も怪しくなってしまい、せめて顔が近いシーンだけは……顔を近く……と言い残し、作者は哀れ虎になりました。
(ここででっかい虎の鳴き声のSEを挿入)

……それではあまりに空しいじゃありませんか。
なんとしても虎エンドは回避するのを目指しやっていきましょう。

結論から述べますと、書きたかった部分にたどり着く前に力尽きるのを避けるための最も確実な方法がひとつ有ります。

それは、書きたかった部分は冒頭でいきなり書き始めるということです。

筆者はこのくだりを大真面目な顔でタイピングしております!
もうちょっと待ってて欲しい、この後説明に入りますので……。

といってもシンプルな話でして、大体の人が最も確実にモチベーションを保つのは、いつでしょう?ということです。

答えは「物事の取り組み始めホヤホヤなタイミング」です。

ですので、その機を逃がさず、書く。書く。書く。
一番美味しい部分から出し惜しみせず、気持ちの高まりを味方に付けて書いてみてください。

バトルが書きたいなら1行目からバトルを!
顔が良い同性間の顔が近い奴なら初っ端から顔を近く!

……書けましたか? おめでとうございます、元気な掌編です。

あなたはやり遂げました!

読むのはどうせ山月記で悶絶するタイプ

なになに?
これじゃあ山場もオチもへったくれも無いし、「この物語のテーマとは?」って聞かれても何も答えられないよって?

例えば、書きたかった事柄がキャラクター同士の顔が近いことならばそのまま「『任意の存在同士の顔が近いこと』です」って答えれば良いんです。

もしも、この返答をすることに抵抗が有るのだとしたら、少しだけ想像してみてください。
「この物語のテーマとは?」とあなたに問いかけるのってどんな人物が思い浮かびましたか。

もしも、漠然と『審査員』めいた権威のありそうな人物を想起したのであれば……正直に申せば、それは高い確率で杞憂です。

改めて具体的に想像してみてください。

あなたが書いたお話を読むのは、主にどんな人たちでしょう?

恐らくは、リアルやネット上のお友達や知り合い……それも「小説書いてみたんです」と伝えて話が通じそうだなー、と、感じる人になるのでは?

賭けても良いです。
そういう人々はある程度以上の創作への理解と、作品をものしたあなたへの共感をあらかじめ備えている可能性が高いです。

国語の教科書に山月記って載ってたよねーって話題を振れば、やれ読んで死んだだの萌えただの、虎は俺だ、いや言うてアイツ科挙に受かっとるぞ、などなどの喧々諤々がまろび出るタイプ。

そういう人々はストーリー創作を読み取るリテラシーがそこそこ以上に育ってます。

あるいは、そういうオタクっぽい素養は無いけれど……という相手を想定読者にした人も居るかもしれません。
ですが、それはそれで、見せても大丈夫だと判断に足る何らかの信頼関係があればこそ「この人なら読んでくれるかな」と思ったのではないでしょうか。

どちらのタイプであれ、まずもって個人が作品を仕上げたという事実を尊重してくれます。
そこは信頼して構いません。

(逆に言えばそこを軽んじる相手の言うことには最低限の礼を尽くすのはともかくとして、発言内容を傾聴する必要や義理は有りませんよ!)

定型に沿っているかどうかを気にするのは比較的「狭い」読み方なので、
それに拘泥し過ぎて人前に出すのを躊躇うのは、はっきり言って勿体ないです。
自信をもって「これが自分の答えじゃーい!」と出していくくらいの気概でかかりましょう。

あなたが行動したことで何かが変わるとしたら、そこがスタート地点となるはずです。

結局精神論かよって?素人の武器で勇気に勝るものがあるのか?

以上、掌編執筆に際してのおおまかな流れを書かせていただきました。
が、正直ここまでは気構えの問題にしか触れていませんね。

というのも、一応理由はありまして。

本を読み慣れている人だと自然と「文章の型」が出来上がっている事も多いですし中途半端に技術論を述べると混乱の元となる……という判断も無くは無い。です。
とはいえ、これまでの記述を読んだうえで「そんな事は先刻承知だ」「しかしどう書いていいのかわからないから悩むのではないか」と嘆く向きも居られるかも。

そんな場合に備えて、続編ではコンパクトな話の中に言いたい事を込めるための、具体的なテクニックについて扱う予定です。

余談ですが、当記事の総文字数はおおよそ5,000文字です。
意外と色々書けるでしょ?

この分量の文章を読みこなせたなら、書くのもたやすい作業です。
グッドラック!

続きが書けたよ

よしやるぞ!と立ち上がった際にぶつかりがちなアレコレについて、足に刺さった棘をちょこまかと抜いて行く感じの記事をしたためました。
ご笑覧いただければ幸いです!

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