見出し画像

【開催報告】#ピルコンルーム no.37「#『推すこと』自体を諦めないために知りたいこと」

ピルコンのnoteを開いていただき、ありがとうございます!ピルコン学生インターンのごっしーです。
このnoteでは、ピルコンが主催するユース世代向けオンラインイベント「#ピルコンルーム」のレポートをお届けします😊

💡オンラインイベント「#ピルコンルーム」って?
NPO法人ピルコンが主催するオンラインイベント「#ピルコンルーム」。大学生や若手社会人などのユース世代を対象に、身近な性をテーマに安心して語り合いたい方向けに定期開催しているイベントです。

ピルコンでは、3月7日(木)19時半より、 #ピルコンルーム no.37「#『推すこと』自体を諦めないために知りたいこと」を開催しました!
ゲストには社会学者の中村香住さんをお招きし、「フェミニズムの視点で紐解くアイドル文化」をテーマにお話を伺いました。ゲストトークでは、ご自身が編著もされている『アイドルについて葛藤しながら考えてみた ジェンダー/パーソナリティ/〈推し〉』の内容をご紹介いただきながら、「卒業制度」や「恋愛禁止」といったアイドル業界における文化と、その構造を改めて見つめ直す視点についてお話いただきました。

今回のイベントに参加できなかった方、今後イベント参加を迷っている方、もちろん参加してくださった方も、ぜひ最後までお付き合いいただけますと嬉しいです✨


TALK1 アイドル業界における因習とフェミニズム

今回、ゲストにお招きした中村さんも、特定のコンテンツを「推し」ている一人。
「ラブライブ!」を始めとした女性2.5次元メディアミックスや、女性声優、百合漫画・映画・小説などを推しているそうです🌈
また、かつては女性アイドルも「推し」であり、なんと生誕祭実行委員や選挙対策委員も務めていたそうです👀

そうした「推すこと」の当事者でもある中村さんから、まずはアイドル業界における「卒業制度」「恋愛禁止」という2つの文化と、クィアベイティングという用語について伺いました。

一つ目の「卒業制度」とは、アイドルグループを抜けてアイドル活動を終了することを意味する言葉ですが、中村さんは、この制度を「ある一定の年齢になったら、アイドルは続けられない」ということを暗示するものであり、社会の中のエイジズムを再生産することにつながりかねないと指摘しました。
ここで言う「エイジズム」とは、年齢に基づいた偏見・差別や固定観念を意味し、特に高齢者に対するステレオタイプを指す言葉として使われます。
中村さんによれば、アイドルという職業自体が、ある程度の年齢までしかできないものであるという社会通念がエイジズム的であり、見直されていくべきものなのだそうです。

そして、二つ目の「恋愛禁止」ですが、実はこの風潮が「制度」として明文化されているケースは少なく、いわゆる暗黙の了解としてアイドル業界に浸透しているそうです。

中村さんは、この「恋愛禁止」には、下記のような二重の抑圧があると指摘しています。
①「恋愛禁止」自体が、労働者個人のプライベートに立ち入り、人権を侵害する。
②「恋愛禁止」の「恋愛」は異性愛のみを指しており、異性愛以外の恋愛(同性愛や両性愛)が想定されていない。

このような「恋愛禁止」の前提となっている異性愛主義は、アイドル本人に対する抑圧として機能するほか、同性のファンという存在を特殊なものと認識してしまうことにも繋がります。
すなわち、アイドルのファンはアイドルに対して恋愛的・性愛的な感情を持っているという固定観念と、そのファンの恋愛対象は「異性」であるという異性愛主義によって、同性のファンは二重の意味で特異な目を向けられやすくなってしまうのです。

一方で、中村さんは、女性メンバー同士で交際していることをカミングアウトしたアイドルや、メンバーが全員ゲイであることを明らかにしている「二丁目の魁カミングアウト」を例に挙げ、そのような「恋愛禁止」の持つ機能や「疑似恋愛」の意味について、再考を投げかけました。

例えば、ファンとアイドルの間の「疑似恋愛」を端的に示しているのが、歌番組における女性アイドルと男性アイドルの共演の難しさです。歌番組などのステージでは、女性アイドルと男性アイドルが一緒に映ることが少ないのは、アイドル同士の恋愛を視聴者に想起させないようにする配慮とも考えられます。しかし、女性アイドルと「ゲイアイドル」であれば恋愛が生まれる可能性がないので、同じステージで共演しやすいということも考えられるのだそうです。

また、アイドルのセクシュアリティというテーマに関連し、中村さんが取り上げたのが「クィア・ベイティング」という用語です🌈
「クィア・ベイティング」とは、実際には同性愛者ではないのに、ある人物やキャラクターが、あたかも同性愛者であるかのように匂わせたり、わざとバイセクシャルを予感させるような表現を使うなどして“性的指向の曖昧さ”をほのめかすことで、LGBTQ+の視聴者や消費者をはじめとした世間の注目を集めようとする商業戦略のことを意味します。

ここで、中村さんが繰り返し主張していたのは、クィア・ベイティングは「マーケティング手法を批判するための用語」であり、本来、人に対して使う言葉ではないということです。
例えば、アイドルやセレブリティが、SNSなどでセクシュアルマイノリティであることをほのめかすような投稿をすることに対し、「本当は異性愛者なのにおかしい」と批判することは、逆にその人のセクシュアリティを決めつけたりカミングアウトを強制してしまう暴力になってしまうといいます。

もちろん、セクシュアルマイノリティ当事者の抱えている困難を無視して、注目性だけを利用することは批判されるべきですが、その批判を「人」に向けることで新たな暴力を生まないように、私たちも気をつけたいですね。

TALK2 アイドルとフェミニズムの接点?

ところで、アイドルとフェミニズムは、ときにポジティブな接点を見いだされることがあります。
例えば、社会学者の佐倉智美さんは、『ラブライブ!』という作品を例に挙げ、フェミニズムの観点から優れている特徴として、下記のポイントを挙げています。

1. 自立した女性キャラの主体性
2. 女性ホモソーシャルな親密性
3. 女性によるリーダーシップのロールモデル
4. ありのままの受容と自己肯定の物語
5. 男性ホモソーシャル公的領域の撹乱

【参考】佐倉智美(2016)「ラブライブとガルパンをフェミニズムが評価すべき5つの理由[メディア・家族・教育等とジェンダー]」『佐倉智美のジェンダーあるある研究ノート』

では、他のアイドルではどうでしょうか。
中村さんは、フェミニズムと紐付けて語られることが多い「ハロプロ」「ガールクラッシュ」を例に挙げ、その構造を再考しています。

一つ目の「ハロプロ」は、「ハロー!プロジェクト」の略であり、モーニング娘。やJuice=Juiceなどの女性アイドルグループが所属しています。
「ハロプロ」の楽曲には、家父長制的な抑圧、男女二元的なジェンダー規範、異性愛主義等などの規範の中に生きる女性の主人公が数多く登場します。それぞれの主人公は、規範を受け入れたり、葛藤に苦しんだり、従属的な自らに酔うなど、楽曲ごとに異なる態度を表します。

しかし、『アイドルについて〜』で、ハロプロについて分析しているいなだ易さんによると、聴き手は楽曲が歌い上げる傷を「歌詞の主人公」という架空の女性に引受けさせ、その傷が現実に女性が負っているものであることを一時忘却している、といいます。
すなわち、現実に存在する「暴力」を、生身のアイドルや自分たち自身からスライドすることでようやく直視し、「救われ」ているような気持ちになっているというのです。

そして、二つ目の「ガールクラッシュ」は、K-POPにおける女性アイドルのコンセプトの一つであり、ガールがクラッシュする(衝撃を受ける)ほど魅力的な、「強くてカッコいい」「自立した」「異性を意識していない」女性アイドルを指す言葉として使われます。

ガールクラッシュは、韓国の近年のフェミニズムの盛り上がりと紐付けられたり、「日本のアイドル」の一般的なイメージとされている「可愛らしい」「異性ウケの良い」物腰やスタイリング、パフォーマンスや歌詞と比較されることもあります。

しかし、『アイドルについて~』の中でガールクラッシュについて分析しているDJ泡沫さんは、「ガールクラッシュ」を表層のイメージだけでフェミニズム的なものと結びつけて賛美することには、女性の主体性を考えると根本的に矛盾があると指摘しています。
その理由は、ガールクラッシュが「コンセプト」化されていった過程にあります。現状、K-POP業界で活躍しているガールズグループプロデューサーの多くが男性である以上、その殆どが「女性ファンはこのようなものを好むだろう」という男性の目線によって作られた「女性ウケしそうなコンセプト」という事になるからです。

このような構造を踏まえると、日本の女性アイドルが韓国の女性アイドルと比較される時に言われがちな「操り人形」だったり、「画一的な女性像を固定する」というようなイメージは、本当に的を射た見方なのか、注意深く考える必要がありますよね。

TALK3 パーソナリティの消費

最後に中村さんが取り上げたのが、アイドルのパーソナリティ消費の問題です。
今日、ほとんどのアイドルは、SNSを使って自分自身のパーソナリティを発信し、24時間その更新を続けたり、ファンと交流をしています。
しかし、そうしたパーソナリティの提供に、どれぐらいの金銭的対価が発生しているかは分かりません。中村さんは、こうしたパーソナリティやアイデンティティの提供を、アイドルの労働問題として考えるべきだと指摘します。

また、SNS以外にも、多様なジャンルを越境しながらエンターテインメントに従事するアイドルの姿を描いたMVが、乃木坂46の『僕は僕を好きになる』です。

このMVでは、主人公の女性が乃木坂46のメンバーとしてダンスパフォーマンスをする姿だけでなく、女優として役を演じる姿、雑誌の写真撮影をする姿、ドッキリを仕掛けられる姿といった、「アイドル」という仕事の様々な側面を見ることができます。それと同時に、アイドルという仕事において、オンとオフの境目がいかに曖昧で浸食し合っているものなのかが分かります。

今回の記事で、イベントの内容を全て取り上げることはできませんでしたが、中村さんから以下の参考文献もご紹介いただきました。
関心のある方は、ぜひ手に取ってみてください📖

【参考文献】
・香月孝史・上岡磨奈・中村香住編著『アイドルについて葛藤しながら考えてみた――ジェンダー/パーソナリティ/〈推し〉』(青弓社、2022年)
・上岡磨奈『アイドル・コード――託されるイメージを問う』(青土社、2023年)

Q&Aタイム

当日は、事前に参加者から頂いた質問を取り上げた後、お時間の許す限り、リアルタイムでZOOMのチャットに寄せられた質問も取り上げました!
ここでは、質問と回答の一部を共有します✨

Q.ファンの間で炎上するアイドルの恋愛と祝福されるアイドルの恋愛の違いはどのようなものだと思いますか?また、異性愛や同性愛によって違いはあるでしょうか。

A.一番大きいのは、ファンダム側が恋愛に対してどのようなスタンスを持っているのか、という点だと思います。ただ、異性同士の「恋愛」は炎上しやすい一方、「結婚」となると、すごく悲しいけれどしょうがない、という感じになりやすいですね。それは、異性愛的な意味での法的な結婚が、私たちの人生に大きく影響するライフコースの出来事として承認され、特権性を持っているからだと思います。ただ、私はそもそも「結婚」というものにそんなに高い価値を置いて良いのか?と思っています。
また、異性愛と同性愛は、私が見る限り、やはり異性愛のほうがずっと燃えやすいと思います。ただ、同性愛の場合は「あの人◯◯らしいよ」など、逆に変に噂されてしまう場合もありますね。

Q.発言の中に政治的に不用意なものがあり、やんわりとファンと繋がる用のSNSで示唆したところ村八分にされた。以降ファンコミュニティのようなものには入ってないので、「好き」を誰かと共有しづらいことに物寂しさがあります。

A.これは本当に辛いですよね。日本では、オタクのアカウントと政治的な話をするアカウントは分けた方がいい、みたいな風潮があるじゃないですか。オタクをしているということそのものが政治的な表明なんだぞ、と私は思うので、悲しくなります。
私個人は、研究も日常もオタクも一つのアカウントで発信しているので、それで相手がブロックやミュートをしてきたらしょうがないなと思っています。そういう人とは仲良くできないので、仲良くできない人が離れていくのは仕方ないと思うようにしています。
あとは、何かしらの方法で、自分と近い考えを持っている方と繋がれるといいですよね。違うアカウントを作ったり、違うSNSに行ってみるとか。自分と同じ物を好きな人の中で、政治的な意見が近い方もいると思うので、そういう方を見つけられるといいですね。

沢山の質問・コメントを届けてくださった皆さま、本当にありがとうございました🙌

ディスカッション

ゲストトーク・Q&Aの後は、参加者やピルコンフェローでディスカッションを行いました。各グループで簡単に自己紹介をした後、「ゲストトークを聞いて、印象に残ったこと」「コンテンツに対する応援と批判を両立するためには、どんな視点や行動が必要?」というテーマで、20分ほど話し合いました。
推しの有無に関わらず、アイドルなどのコンテンツに対して何らかの思いを抱えている参加者の方が多く、活発な意見交換が行われました🙌
ディスカッションのなかで、共有された意見・コメントの一部を紹介させていただきます💭

・アイドルが学術的な研究の対象になることに驚いた。
・推している対象が主体的にやっているのかどうか、やらされているのか、注意深く見てみたいと思ったが、それを自分が見抜けるかは分からない。
・推しのことが好きだからこそ、応援している自分と批判する自分をどちらも大事にしたい。応援と批判は両立できると思った。

ご参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました!

参加者の声

最後に、参加者の皆さんからいただいた感想の一部をご紹介します✨

・女性アイドルと男性アイドルの歌番組などでの距離の置かれ方やセクシュアリティの観点から見た「二丁目の魁カミングアウト」と女性アイドルの対バンのしやすさなどが興味深かった。
・ラブライブがフェミニズムの側面から考えられること、ガールクラッシュのコンセプト化、乃木坂46のMVから見るパーソナリティ消費など、多様なアイドルを知ることができとても勉強になりました。
・アイドルを推すことでルッキズム、エイジズムに加担しているのではないか、性的な消費をしてしまっていないかと推すことへの悩みや、推していることを公言することでそれが自分自身の政治的主張につながる気がしていて、推すと同時に批判的な意見も抱えていたのですが、いずれもどの程度演者が主体的なのかというのが重要であると一つの答えが初めて言語化された気がしました。

アンケートにご協力頂いたみなさま、本当にありがとうございました!
またお会いできることを心より楽しみにしております😊

最後まで読んでくださってありがとうございました!ピルコンルームでは、性について安心して語り合いたい、一緒に考える仲間がほしいユース世代のご参加をお待ちしております。イベントの後にはアットホームな交流会「ほうかごピルコン」も開催しているので、性や性教育について気軽に話せる仲間がほしい方におすすめです。(ちなみに、ピルコンのイベント告知はinstagram等各種SNSやPeatixで通知を受け取ることができますよ👀)

ぜひ、次回のイベントでお会いしましょう!👋

ピルコンからのお知らせ

ピルコンはTwitterやInstagramでも正しい性の知識やイベント情報などを発信中です!
noteと下記SNSのフォローをぜひぜひよろしくお願いします!

💙ピルコンTwitter
💚ピルコンInstagram
💜ピルコンTikTok
💗ピルコンYouTube

それでは次回もお楽しみに! 
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
この記事を書いた人⇒ごっしー
早稲田大学文化構想学部の4年生。生まれた環境や性別にかかわらず、全ての人が正しい性の知識や望む手段にアクセスできる社会を目指して、ピルコンフェロー/インターンとして活動中。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?