セッションの可能性、その先

石のような目をしたクライアント大腰筋に賭けるの続編です。

鋼鉄の腹筋

痩せて細い彼の大腰筋に触れる前に、より表層にあるお腹の筋肉(腹直筋周辺)を緩めることからはじめました。彼の腹部の筋肉は、鋼鉄のような硬さでした。

一般的には"硬い腹筋"という単語は、ポジティブな印象があるかもしれません。鍛え上げられた鋼鉄のような硬くて強い筋肉という感じでしょうか。このイメージはある部分では正しく、ある部分では間違っています。筋肉はリラックスしている時には柔らかい方がいいのです。グッと力を入れた時に硬くなることと、普段から硬いことではまったく意味合いが異なります。

普段のリラックスしている場合でも腹部に硬さがある場合、それは心理的な緊張、あるいは姿勢の悪さによって生み出されています。

彼の場合は、強い不安怒りによって作られているものでした。それも私が過去に触れたことのないレベルの硬さです。もちろん、姿勢も良くありません。心理的なトラウマによって姿勢が悪くなり、また姿勢の悪さによってよりその心理的なトラウマが固着化しているのです。身体がそうセッティングされていることで、彼は牢獄の中に閉じ込められているのです。

鋼鉄のような彼の腹直筋。その際(きわ)に触れ、指を沈ませていきます。これまでに数えきれない数のセッションをおこなってきましたが、初めておこなう何かといった不思議な怖さがありました。未知の島に小さな舟で進んでいくような緊張感を感じながら、慎重に沈めていきます。

痺れる指先

腰椎3番辺りを狙って、大腰筋に向かって指を沈ませていくのがこのワークの定石です。

ここから先は

2,069字
治療家(セラピスト、ヒーラー)は隔離された空間の中でクライアントと時間を過ごします。その時間の中では、耳が聞こえなかった人が聞こえるようになったり、一般的な価値観の理解を超えたことが起こります。その中で、何を見て、何を感じ、何が起きたのかについて。あるいは何が起きなかったのかについて、書き記していきます。月に2つから3つの記事を目安に、投稿していきます。

「心理的なこと」と「身体的なこと」。どちらも区別することなく、身体を通して働きかけるボディワークの世界。経験したことのない人からすると、な…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?