養成コース、2日目(後半)

養成コース、初日」「養成コース、2日目(前半)」の続きです。

前回までのまとめ

医師が見放すレベルの心理的トラウマを抱えた男性が、ボディワークに出合い回復する過程を綴っています。個人セッションとピラティスのグループレッスンを並行して経験する中で、彼は徐々に回復へ向かっていきます。それは彼の家族や周囲、何より彼自身が予想しないレベルでの改善でした。

して、彼は養成コースに参加することになります。

体調を崩して初日を欠席してしまった彼でしたが、2日目は時間前に会場に着きます。私とのやりとりで少し彼が落ち着いたところから、またお話していきましょう。

養成コースについて

彼の話に入っていく前に、養成コースについて簡単に触れておきます。

弁護士や税理士、医師、鍼灸治療や柔道整復などとは違って、ピラティスの資格は公的なものではありません。民間資格ですから、ひと口にピラティスと言っても様々です。フィットネス的なピラティス資格団体もあれば、ボディワーク的なピラティス資格団体もあります(フィットネス≠ボディワークなのですが、ここではこのことについて触れません)。そのそれぞれに質の高いものもあれば、そうではないものもあります。そもそも、資格団体の中の講師によっても技量は様々ですから、どの団体だからどうとも言えないのが実際です。リズム感のないジャマイカ人がいたり、眼鏡をかけていない日本人もいたり、恋に臆病なフランス人がいたりするのと同じですね。

彼が参加した資格コースについて

私の場合、3つのピラティス資格団体から認定を過去に受けています。その後、私が紹介する資格団体ではなく、私自身から資格発行して欲しいとある人から依頼をしてもらったり、ロルフィングのエド・モーピン博士から博士が得た知見とピラティスを組み合わせたボディワークを作り出すように言われたことなどから、私自身のメソッドを創始し、資格団体を作りに至りました。

ある時は博士に相談をしながら、私自身が考案して発展させたメソッドを、体系立てて私自身がお伝えしているのが、現在の資格コースです。20年前の私が鬱や心理的なことで生きることが辛かったことなどもあって、より心理的なことにフォーカスしたピラティス、ボディワークなのが特徴です。キラキラ、ファッション的なピラティスであれば、彼が興味を持つことはなかったでしょうし、彼が変容するきっかけを掴むこともなかったでしょう。

養成コースの参加者について

彼のように明確に心理的な問題と向き合う中で、私の資格コースに参加する人もいます。客観的に見れば、彼ほどの深刻さはなかったとしても、鬱っぽい感じが続いたり、日々の倦怠感生き甲斐が感じられないなどのきっかけからドアをノックしてくれる人たちがいます。

とは言え、参加動機や参加者のバックグラウンドは様々です。

バレエベリーダンスエアロビクス水泳。あるいは、格闘技フィットネスやスポーツの愛好家インストラクターとして活躍している人たちも参加してくれます。ジャイロトニックジャイロキネシスなどの他のボディワーカーも同様です。また、鍼灸師などの治療家リンパケアなどのセラピスト。あるいは、美に特化しているエステティシャンの方が参加されることもあります。シンプルに、より深い治療レベルの技術を身につけたいと学びに貪欲な人たちも参加します。既にピラティスの有資格者が参加されることも、少なくありません。

主婦OLサラリーマン。ピラティスをしたこともなければ、運動自体も久しぶりという人もいます。工場で働いていたり、システムエンジニアとしてパソコン作業をしていたり、今回の彼みたいに働くことができない人もいたり、その人その人それぞれに固有のストーリーがあります。どこに住んでいるのか、年齢、既に私と会ったことがあるのか、あるいは未だなのか。本当にそれぞれです。

知識や経験、筋力や柔軟性より余程重要なことがボディワークやセラピーの世界にはあります。だから、誰でも基本的にはコースの参加対象です。

そして、彼の養成コース

閑話休題。
石のような目を持つクライアント、と私が名付けた彼の目はまだ石のような目のままでした。彼と目が合うと身体の硬直が瞬時に起きて、呼吸は浅くなります。彼の抱えるトラウマの根深さを痛感します。彼が昨日のことを引きずらず、これからの時間に目を向けてくれたことに安堵して、コースははじまりました。

養成コースは半年以上、続きます。その重要な初月の2日間、その2日目。参加者全員に対して、まだ土壌を耕すような準備段階と言ってもよい時間です。振り付けを伝えていくだけではなく、もっと深い根幹的な部分も含めて私は伝えていくので、毎年時間をかけるようにしているのです。

そして、徐々に...という場面でまた事件が起きます。

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治療家(セラピスト、ヒーラー)は隔離された空間の中でクライアントと時間を過ごします。その時間の中では、耳が聞こえなかった人が聞こえるようになったり、一般的な価値観の理解を超えたことが起こります。その中で、何を見て、何を感じ、何が起きたのかについて。あるいは何が起きなかったのかについて、書き記していきます。月に2つから3つの記事を目安に、投稿していきます。

「心理的なこと」と「身体的なこと」。どちらも区別することなく、身体を通して働きかけるボディワークの世界。経験したことのない人からすると、な…

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