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【感情紀行記】損得感情

 小さい頃、水を買う人の気持ちがわからなかった。幼少期は、外で飲み物を買う回数が少ない。そして、小さい子供の数百円はかなり大きな額である。そんな一回の重要な決断において、蛇口を捻れば出てくるような液体にそんなものを選んではいられないのだ。甘くて美味しい飲み物を選ぶに決まっている。

 そんな卑しい損得勘定は年齢とともに薄れ、何も考えずに水を買うようになった。これで大人の仲間入りだ。そんなことを思い、外出先のコンビニで水を買おうとした。その時、見つけてしまったのだ。「常温の水」を。冷たい水、温かい水と値段の変わらない、常温の水が販売されていた。冷たい水や、温かい水は燃料代が多量にかかっている。常に外気にさらされているところで冷たい空気や、温かい空気を作り、温度を下げたり上げたりするのには相当のお金がかかっているだろう。飲み物の値段は普段気にせずに飲みたいものを手に取っている。安いお茶があろうと、気にせず好きなお茶を買っていた。友人にそれを指摘されたこともあったが、あまり気にしていなかった。しかし、この常温の水は体にいいのかもしれないが、どうも手に取れない。躊躇してしまったのだ。

 颯爽と、常温の水を手に取りレジに通していく意識の高そうな女性がまた一つ大人に見えた。燃料費、電気代が高騰している中、冷たい水で喉を潤し、常温の水を買う人の存在を信じられない自分が口惜しかった。

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