#今月の本屋さん ほんまる神保町(東京・神保町)
本の街、神田神保町に新しいシェア型の本屋さんが開店しました。「ほんまる神保町」です。本棚を個人や企業に貸し出して、各自が自由に選書した古本を売る「シェア型」の本屋さんは神保町のPASSAGEや静岡のヒガクレ荘などこれまでもいくつか紹介してきましたが、こちらの「ほんまる神保町」は色々と斬新です。
私が訪れたときは開店日でした。ちょうどお店のオープニングセレモニー中で、報道関係者など大勢の人々がお店の前に集まっており、注目度の高さがうかがえます。それもそのはず、お店のオーナーは直木賞作家の今村翔吾さんなのです。また、日本を代表するクリエイティブディレクターの一人である佐藤可士和さんが参画されている点も注目です。カメラやマイクに囲まれ、テープカットに望むお二人の姿が見えます。
店内に入ると天井が高く、暖かみのあるフィラメント電球に照らされて本棚が並んでいます。
台湾に関する歴史やエッセイ本を集めた「台湾文学館」や、日本の絶景や秘境を紹介する「秘境探訪書店」といった名前の棚が見えます。
今年、本屋大賞を受賞した宮島未奈さんの『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)が店内のそこかしこに見受けられます。この作品は滋賀県大津市を舞台にした物語であり、大津市は今村翔吾さんの地元でもあります。
今村翔吾事務所さんの本の棚もあります。直木賞受賞作である『塞王の楯』は関ケ原の合戦の際の、大津城が舞台になっています。さきほどの『成瀬~』と同じ大津ですね。大津すごい。
『塞王の楯』は、「どんな城も落とす砲」を作る鉄砲職人“国友衆”と「絶対に破られない石垣」を作る石垣職人“穴太衆”による、矛盾を抱えた戦いをテーマとした激アツの物語です。職人たちだけでなく、京極高次や立花宗茂ら戦国武将たちも本当に魅力的でおススメの本です。まだ読んでいない方はぜひ。
出版社も出店しています。こちらは美術出版社さん。美術の歴史を学ぶ人なら一度は目にする美術史シリーズが並んでいます。『世界服飾史』『日本やきもの史』など、読んでみたい本がずらり。
通常、シェア型書店の棚主は企業ではなく一般の方が多く、扱う本も棚主が個人的に所有している古本を置くのをよく見かけますが、古本は一度売ってしまったら補充がなかなかできない点が難点です。しかしこのように企業が本棚を借りて、古本ではなく新品の本を扱えるというのが画期的です。どのような仕組みになっているかは後述します。
こちらは早川書房さんの棚。Netflixでの実写化が話題の『三体』シリーズには「人類は滅びなければならない!」のオビ…最高の惹句ですね。「地球上にあるミステリー小説のオールタイムベスト これを超えるミステリーはたぶん地球が滅びるまで出ないだろう」…この最上級の煽り方のPOPはどの本のことだかみなさんわかりますか? ぜひお店で確認してください。タイトルと表紙のデザインが気になる『ここはすべての夜明けまえ』(間宮改衣著)を購入しました。
購入したら素敵なブックカバーをいただきました。「本」をモチーフにした家紋のようなデザイン。
こちらは日暮里の本屋さん「パン屋の本屋」さんの棚。本屋さんも出店できるのですね。パン関連の本が並んでいました。PIEの『かわいいパンレターブック』も見えます。
佐賀県にある「佐賀之書店」さんの棚もありました。近年の名作SFが多く、個人的に食指が動く本ばかり…。実はこの佐賀之書店さんも今村翔吾さんが経営されている本屋さんです。前述のパン屋の本屋さんも含め、特徴ある本屋さんが各地にあることを知るきっかけにもなりそうです。
地下にも本棚がたっぷりあります。
明るい笑顔が素敵な、店長の中村杏奈さんにお会いできました。中村さんに、どうやって棚主が新品を仕入れるかなど、運営について少し伺いました。
ほんまる神保町は、通常のシェア型書店と異なり、本の流通を担う大手取次店(日本出版販売株式会社)と取引しています。棚主は、扱いたい本のリストをほんまる神保町に渡しておけば、取次店を通して新品を仕入れることができます。本棚から売れたら書店員さんが取次店に補充注文をし、新品が取次店から届き次第また本棚に戻してくださるので、棚主がお店に訪れてマメにメンテナンスをしに来る必要がありません。この仕組みであれば近所に住んでいる必要がないので、棚主は全国どこにいても自分だけの本屋さんを「ほんまる神保町」内に持つことができます。
※以上は法人向けの契約内容です。個人向けや、法人向けについてさらに詳しくは以下のGoogleドライブからご覧になれます。
https://drive.google.com/drive/folders/18R_z1DVq7KN-604-ZfAI4_Bnbe7Y5_aO?usp=drive_link
今村翔吾さんは、全国で本屋さんの数が減っていくのを座して見ているわけにはいかないとして、数年前から書店経営を手掛けるようになりました。大阪の「きのしたブックセンター」、佐賀の「佐賀之書店」、そしてこの「ほんまる神保町」です。
私も「ほんまる神保町」の出版社向け説明会を聞く機会がありましたが、そこで今村さんは「ほんまる」は神保町のみならず、これから全国に展開していきたいと語っておられました。
全国の経営者、政治家、芸能人や、小説家・漫画家といったクリエイターの本棚が増えていったら楽しそうですね。あるいは地方自治体が出店して地域の広報に役立てる「本のアンテナショップ」にもできそうです。いろいろな組み合わせと広がりが考えられる画期的な仕組みであることは間違いありません。その可能性を感じに、ぜひ「ほんまる神保町」に伺ってみて下さい。
「ほんまる神保町」公式サイト
「ほんまる神保町」X(旧Twitter)
(文・写真:PIE三芳寛要 撮影日:2024/4/27)
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