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「信頼できる他者」とはどんな存在なのか。10年近く前に出会ったある女の子との話

台風の影響は皆さん大丈夫でしょうか。かつて経験したことないほどの雨になっている地域もあると聞きます。
皆さんがどうかご無事でありますように。。

そんな中で何をお伝えするのがいいかなと考えていた時に、ふと一人の女の子の姿が思い浮かびました。

今回のクラウドファンディングのテーマである「信頼できる他者」とはどんな存在なのか。

クラファン最終日に、皆さんと一緒に想いを馳せるきっかけになればなと思い、10年近く前に出会ったその女の子との話を書いてみたいと思います。


Mちゃんとの出会い

当時、私はPIECESの活動をする傍ら、ソーシャルワーカーとして教育委員会で勤務していました。その時に関わっていた子の1人が、当時小学5年生だったMちゃんです。

いわゆる不登校の状態になって約2か月。学校に行けなくなった理由や原因は学校も保護者も分からないまま。だんだんと元気がなくなっていく様子を心配した学校からの依頼で、私が関わることになりました。

最初の数か月は、そもそも会うことすらできない日々が続きました。

ソーシャルワーカーというよく分からない人が家に会いに来てもいいかという話なので、拒む気持ちも分かります。それ自体決して珍しいことでもありません。しばらくは、両親との面談を重ねながら様子を見ることにしました。

両親や学校側との面談を重ねる中で、いくつかのことが分かってきました。

Mちゃんには年下のきょうだいがいて、そのきょうだいが知的・身体的な障がいを抱えていることもあり、Mちゃんに関心が向けられる時間や余裕があまりないこと。比較的自分の好きなことがハッキリしており、学校に通っていた時も一人で遊んだり過ごしたりすることが多いことなど。

同時に、両親の焦りや緊張感が高く、担任の先生も、教師歴ではじめて担任するクラスの子が不登校の状況になったこともあり、同様に焦りや困惑の様子が色濃く伝わってきたのをよく覚えています。両親や先生方へのサポートや助言をしながら、直接関われるタイミングを伺いました。

一歩ずつの前進

数か月が経ったあるとき、Mちゃんが会ってもいいと言ってる、という知らせを受けました。その時、Mちゃんは既に6年生になっていました。

初めて訪問した日、ほとんど視線が合わず、会話も途切れ途切れだったけど、それでも最後に「また会いに来てもいい?」と尋ねると、こくっと頷いてくれました。

それからは、月に1,2回の頻度で家に会いに行き、何をするでもなく、好きな本やアニメの話を聞かせてもらったりして過ごす、ということが続きました。

学校の話題も時々は出てくるので、全く避けているわけではない。担任の先生から渡されているプリントなども、マイペースではあるけれどそれなりやっている。でも、学校に行きたいのかどうか、何か嫌なことがあるのかどうか、今がどんな気持ちでいるのかどうかなどは、なかなか表されないままでした。

夏休みが過ぎ、表情自体は最初のころよりも落ち着いてきた様子でしたが、こちらとしても少し何か変化を加えられた方がいいのかなと思い、一緒に外に出てみないかという提案をしてみました。その頃、自宅にいる以外は、自宅マンションの1階にあるスーパーに行くくらいしか外出する機会もなく、会う人も家族以外だと担任の先生と私くらいでした。

家の外に出てみて、そしてできれば他の人と少しでも関われたらと思い、Mちゃんとどこなら行けそうかという作戦会議を開いてみることにしました。

その中で、Mちゃんから「小さな子のお世話をしてみたい」という話が突然出てきました。出会ってから数か月、Mちゃんから初めて聞いた「やってみたい」という気持ち。これは尊重したいと思い、たまたま家のすぐ近くにあった子育てひろば(乳幼児の親と子が日中の時間を過ごす居場所)に翌日問い合わせをしてみました。

最初は「小学生のボランティアね…」と難色を示されていましたが、Mちゃんのこれまでの背景を伝え、少しでもいいから外とつながる機会を作り、できれば小さな子と関わる機会を作りたいと思っていることを伝えたところ、「それなら、親子が帰った後の玩具の片づけや拭き掃除とかであれば…」とのお返事をもらうことができました。

「直接お世話をしたい」という希望は叶わないものの、それでもMちゃんはその提案を受け入れ、さっそく翌週から平日の夕方、親子が帰った後の時間に週1回ボランティアに行くことになりました。

心をひらける他者との出会い

初回は新しい場所ということもありさすがに緊張している様子でしたが、スタッフの方に教えてもらいながら玩具を一つずつ丁寧に消毒したり、片づけたりといったことを手際よくこなしていきました。

初回、2回目と私も同行し、また行きたいということだったので、3回目以降は子育てひろばの方にも相談し、Mちゃん一人で通うようになりました。

はたから見ていてもすっごく楽しそうか、というとそうでもない様子でしたが、それでも週に1回、1時間にも満たない時間でしたが、毎週欠かさずに通い続けました。

1か月ほどが経ち、ひろばの責任者の方からこんな話を聞きました。

「Mちゃんは誰にでも愛想よく、というわけではないけど、特に1人のスタッフの人とよく話しているの。他愛もない話なんだけど、時々笑顔なんかも見せたりして。で、そのスタッフが「Mちゃん、あなたがいてくれて本当に助かるよ。仕事も丁寧だし。本当にいつもありがとね」なんて言ったりすると、照れながらもニコッとして。こっちまで幸せな気持ちになるのよね」

そんな様子で3か月ほどが経ち、学校は冬休みの季節。

子育てひろばも2週間ほどお休みとなりました。冬休みが明けて、最初の家庭訪問の日。

およそ1か月ぶりに会ったMちゃんが「明日から学校に行きたい」と伝えてくれました。

突然のことに担任の先生と一緒に驚きつつも、そのことをその時家にいたお母さんにも伝え、必要なものの準備に取り掛かりました。

翌日、昼前に学校から連絡があり、無事にMちゃんが登校してきたこと、周りの子たちも最初は少し戸惑いつつも、優しく迎え入れていることなどを教えてもらいました。

そこから卒業まで、Mちゃんは一度も学校を休むことはありませんでした。

同時に、自分の中で何かの整理をつけたかのように、子育てひろばのボランティアもおしまいになりました。

卒業までに1回だけ面談をした際に、「明日から学校に行きたい」という気持ちになった背景をそれとなく尋ねてみましたが、見事にはぐらかされてしまいました。

その後、入学した中学校では、勉強面こそ遅れを取ってしまった影響があったものの、中学の先生に言わせると「そんなに長期間不登校だったようには思えない」といった様子で、部活にも入って生活しているとのことでした。

もちろんMちゃんにとって学校に行くことがすべてではありません。

それでも、日に日に元気がなくなっていく様子だったMちゃんが、約1年の時間をかけて意思や意欲を持つようになり、自分の力で大きな一歩を踏み出すことができたんじゃないかと思っています。

特別ではない「ふつうの関わり」の特別さ


Mちゃんとの関わりのプロセスには、私も含め何人かのおとなの存在がありましたが、中でも、子育てひろばで出会ったスタッフの方の存在はとても大きかったのではないかと振り返っています。

一度だけ、Mちゃんが学校に行き始めた後に、その方とお会いしてお話しすることができた時におっしゃってたことが今でもとても印象に残っています。

「私は別に特別なことなんて何も。そもそも何の資格も持ってないし、Mちゃんの学校のことだってよく分かってなかったし。でも、Mちゃんと一緒にいるとすごく落ち着くから、そのことをそのまま伝えたり、ボランティアとしての仕事も本当に助かったから、それもそのまま伝えたりしていただけですよ」

その話を聞いた時、Mちゃんにとって必要だったのは、まさにその特別ではない、いわば「ふつうの関わり」だったのではないかと感じました。

障がいを抱えるきょうだいのお姉ちゃんとして、家のことを手伝うのが当たり前だったMちゃんにとっての「助かったよ、ありがとう」の言葉。家族でも、学校の人でもない人と一緒に時間を過ごし、それを「心地いい」と思ってくれたこと。

そんな何気ない関わりによって、Mちゃんは心のエネルギーを補給していったんじゃないか。実際のところは分かりませんが、そんな風に捉えるとなんだかしっくりくるように思います。

少しずつ、みんなで

今回のクラウドファンディングでは、「子どもたちの生きる地域に“信頼できる他者”を増やしたい」というメッセージを届けてきました。“信頼できる他者”がどんな存在なのか、それは一人ひとり感じ方が異なるので、唯一の正解はありません。

ただ、一つ言えるのは、特別なことは必要ないのかもしれないということ。

一人ひとりがもっている他者を想う気持ちや、ちょっとしたまなざしが、誰かにとっての支えや力になっていくんじゃないかと感じています。

「少しずつ、みんなで」

それぞれが持っている市民性を分かち合っていくこと。
それぞれに影響し合いながら、醸成していくこと。

私たちPIECESは、これからもそのためのチャレンジを続けていきたいと思います。

クラウドファンディング、目標達成しました!

2024年8月31日までクラウドファンディングに挑戦し、500人の方から510万円を超える支援を頂きました。本当にありがとうございました。

今回、PIECESがどうしてプロジェクトを立ち上げたのか、想いについては以下でご紹介しています。こちらもお読み頂けたら嬉しいです。



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