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やあ

楽しいという意味が違う
一方ではくだらないことを延々と話し
もう一方は辟易していた
背中をくっつけて座っていて体温が心地いい
辟易していたがそれはそれ
延々と話していたがそれはそれ
悪いことばかりでもない
そのぬくもり
楽しいことばかりあってもなにか平坦
互いの背中の重みの均衡がいい
そんなふたり
どこにでもある光景
だがその均衡も得たり失ったり

霧のようなものに包まれていると分からない
視界も感覚も
心地よい均衡も霧が晴れてしまえば
一人だけの視界と感覚

座っていて映画を見てひとり言
よくある光景
ふとしたぬくもり
やあ猫
その体温にやすらぎ
失ったそれを知る
失望が支配してしまわないように
ふわふわに集中
綿菓子のようだけど甘くはないよ
多分苦いこのこころ
だけど少なくともそこにいてくれる
にゃーよ
怖いけど優しいんだな
激しいけど柔らかく接してくれる

闇が降るような暗い部屋の中で
眼鏡をかけて映画を見る
お互い
肩は寄っていて眼鏡に反射した映画のシーンが不思議で
表情を確認した
そしてふと手を握ったら
映像と音声の炸裂する中
その静寂
聞こえるのは心音ではなく
ゆがんだビニールのうねるプレスリー
もう今はただ頭の中で

映画を見てるんだ
一人で
眼鏡はかけているけど
レンズに映っているのは退屈な時間
抱き合ったり爆発したり自慢したり
その孤独
その液体
平気なふりをするのはもううんざりだ
一人泣く
いや泣きはしない
ただ一人と鳴くにゃー
やあ猫
その冷たさのここちよさ
寄る二つの生物



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