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予言者 | 第5話 | カナコの秘密

はじめに

長編小説「予言者」の第5話です。
第4話までの「つづき」ですが、今回の話は単独でも読むことができます

最初から読みたい、と思っていただけたら、こちらから順に😄。

第1話
https://note.com/piccolotakamura/n/n960d5b05e14a

第2話
https://note.com/piccolotakamura/n/n6ccc34d1867f

第3話
https://note.com/piccolotakamura/n/na80e48b8af6d

第4話
https://note.com/piccolotakamura/n/nb18f8532e394


予言者 | 第5話 | カナコの秘密 


「カナちゃん、ボクね、カナちゃんのことが一番好きだよ」

「ありがとう。カナもアキラくんのことが一番好きだよ」

 アキラ君と遊んでいるときは、いつまでも飽きることなく、お互いにお互いのことが好きだって確認していた。
 事実、私とアキラ君は、幼かったとはいえ、自分の気持ちを精一杯伝えあっていた。好きだという気持ちに一滴のウソも含まれていなかった。ずっとずっとお互いのことが好きな気持ちは変わることはないと信じていた。

 幼なじみだから、私たちの親たちも、アキラくんと私が一緒に遊んでいるときは、決して私たちの遊びの邪魔をすることはなかった。

「ねぇ、カナちゃん。今度の夏休みにね、ボク、おじいちゃんとおばあちゃんのおうちに行くんだけど、カナちゃんも一緒に来ない?」

「えっ?ホントに?カナも一緒に行っていいの?」

「うん。ボクのお母さんもね、カナちゃんのお母さんも、『いいよ』って言ってるんだって」

「カナのお母さんも?何にも聞いてないけど」

「カナちゃんのこと、驚かせたくて、言わないように頼んでおいたの」

 アキラ君は本当に私の気持ちを考えてくれる男の子だった。今になって思えば、サプライズが多かった。まだ小さかったのに、何をすれば私が喜ぶのかといつも一生懸命考えてくれていた。


 アキラ君のお父さんが運転する車に乗って、私はアキラ君のお母さんの実家へ行くことになった。

「おばあちゃんちはね、海のそばにあるんだよ」

「ホントに?泳げるかな?」

「ボクは泳いだことはないけど、とても近いから景色はすごくきれいなんだ」


「おばあちゃん、久しぶり。今日はね、友だちのカナちゃんも一緒に来たよ」

「あら、かわいい子ね。アキラくんの彼女かしら?」

「カノジョって?」

「一番好きな女の子って意味」

「あぁ、そういうこと。うん、カナちゃんはボクのカノジョだよ」

 私はとても嬉しかった。アキラ君がおばあちゃんの前でも、私のことを「カノジョだ」って言ってくれたことが。


 着いたその夜、私たちは海に行って、みんなで花火をすることになった。海水浴場ではなかったけれど、防砂林を抜けると、海が広がっていた。夜なのに不思議と明るかった。

「あぁ、きれい。向こうに船が見えるね」

「あれはね、イサリビって言うんだよ」

「イサリビって、なに?」

「漁り火っていうのは、お魚を獲るために明るくした船から見える光のこと」

 私はこの時、初めて漁り火を見た。あんなに遠くにいるのに、こちら側まで明るく照らしている。まるで遠い未来を覗いているかのような、不思議な気持ちに満たされた。


 翌日、朝起きると、すでにアキラ君のお父さんもお母さんもすでにどこかへ出掛けていた。気をつかって、起こさないでいてくれたのだろう。
 
「あ、おはよう、カナちゃん」
アキラ君は、おばあちゃんと一緒にいた。

「カナコちゃん、おはよう。お腹すいたでしょう?カナコちゃんはお魚は好きかな?」

 アキラ君のおばあちゃんが、朝ごはんを用意してくれた。ご飯とお魚だった。

「どうぞ、召し上がれ」
おばあちゃんがニッコリと笑った。


「おばあちゃん、カナちゃんと海に行ってもいい?」

「いいけど、あんまり遠くに行っちゃダメよ」

「わかった。じゃあ、カナちゃん、行こう!」


 昨日の夜と同じ道を歩いているはずなのに、まるで違う光景に見えた。防砂林は思ったより小さかった。

 晴れているのに、白く霞む。アキラ君と手をつなぎながら、海の水をさわった。

「気持ちいいでしょ?」

「ひんやりしてるね。漁り火はないの?」

「あれはね、夜だけだよ」

「そうなんだ。昨日とは全然違うね」

「昼の海と夜の海。カナちゃんはどっちが好き?」

「夜の海かな?夜の海のほうが未来が見えるような気がするの」

「未来が?」

「よく分からないよね。未来なんて言っても」

「うん。あのね、カナちゃん、あそこに大きな岩があるでしょ?あそこに一緒に行ってみない?」

「アキラくんのおばあちゃんは遠くに行っちゃダメって言ってたよね」

「そんなに遠くないよ。お父さんとは、何回も行ったことがあるから心配しないで」


 アキラ君に言われるままに、大きな岩の前にやってきた。砂浜から海に突き出たところにあって、歩いていける。

「カナ、少し怖いな」

「大丈夫。いっしょに行こう!」

 飛沫が顔にあたって怖かったけど、何とか二人揃って岩の上に立った。風が濡れた体をすぐに乾かした。

「気持ちいいでしょ?」
「気持ちいいね」
「この場所、気にいった?」
「うん、とても。カナのこと連れて来てくれてありがとう」

 そのあと、しばらく二人で水平線を眺めていた。

「アキラくん、海の向こうには、何があると思う?」

「海の向こう側には、きっと海がある」

「面白い!海はどこまでも繋がっているからね」

「カナちゃんには、何が見える?」

「未来が少し見える」

「どんな未来が?」

「漁り火の船が何かを一生懸命に探しているような」

「魚かな?」

「どうだろう。この岩から、ちょっと先に船がいるみたい」

「そう。そろそろ帰ろうか?」


 アキラ君と私は、もとの砂浜へ戻ろうとした。そのときは、突風が吹いた。
 私は怖くてすぐにしゃがみこんだが、アキラ君は海に落ちてしまった。


 あっという間のことだった。服を着たまま、アキラ君の姿が私から遠ざかって行った。

 私は急いで、アキラ君のおばあちゃんのもとへ走っていった。早く伝えなければ…


 結局それが、アキラ君との永遠のお別れになった。
 その日の夜まで、漁り火の光る船が、懸命にアキラ君を探したけれど、とうとう見つからなかった。



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