連載小説⑪漂着ちゃん
私はこの1年の間、1度も収容所の外に出ることはなかった。というより、出ることを許可されなかった。ナオミとヨブには申し訳ないが、彼女らといっしょにいるよりは外の自由な空気を吸うことを欲するようになった。
エレベーターを使えばいちばん下の階までは行けるが、出口は1つしかない。監視が厳しい。常駐している守衛が複数人いる。となると、私の選択肢は限られていた。そう、53階の自室から飛び降りることだった。
無論そのまま飛び降りれば死ぬ。しかし今の私は死にたくはない。綱渡りで下に降りるか、それともパラシュートでも作って飛ぶか。だが、いずれも現実的ではない。やはり、このままここで死ぬまで、ナオミとヨブといっしょに過ごすしかないか。彼女らを愛する気持ちはもちろんある、だが…
「お父さん、なに考えてるの?」
不意にナオミが言った。
「いや、べつに」
「お父さんは分かりやすい人ね。ちゃんと顔に考えてることが書いてある。ここを抜け出すことを考えていたんでしょ?」
「あ、いや、そんなことはないよ」
「やっぱりねぇ、外へ行きたいんでしょ?」
「… …」
「私、あなたが戻って来なくなるのが嫌だから黙っていたけど、私がエヴァさんに連絡すれば、あなたには外に出られるチャンスがあるのよ」
「それは本当なのか?どうやってエヴァと連絡をとっているんだ?エヴァと話をさせてくれないか?」
急にナオミが笑いだした。
「ウソよ」
「ウソ?」
「全部ウソよ。あなたのことを試してみたのよ。そっかぁ、やっぱりここから外へ出たいのね。私とヨブを残して」
「い、いや、そんなことは…」
「あなたには私たちといっしょに外へ脱走するという発想はないの?」
「一緒に?可能なのか?」
「いいえ、不可能だわ。この町の掟ではね。破れば殺されるかもしれない。だけど、私もここから外へ出て自由に生きてみたいの」
ナオミとヨブと私の3人揃ってここから逃げ出す、か…。どうしたらよいのだろう?
…つづく
#漂着ちゃん
#連載小説
#私の作品紹介
#創作大賞2024
#オールカテゴリ部門
#小説部門
#ファンタジー小説部門
この記事が参加している募集
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします