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連載小説⑩漂着ちゃん

 1年後、ナオミと私との間に男の子が生まれた。自ら死を選ぼうとしていた者が人の子の親になるとは、自分でも驚きであった。ナオミは子どもを溺愛するようになった。いつしか、私のことを「お父さん」と呼ぶようになっていた。

「お父さん、この子の名前なんだけどね、私、ヨブにしたいと思うの」

「ヨブって、聖書の…」 

「そう、ヨブ記のヨブよ」

「なぜだ?苦難の連続だった人物じゃないか!」
 私はどうしてもヨブという名前は受け入れられなかった。ナオミは何を考えているのだろう?

「でもね、ヨブのように信じる力がないと、この子は生けていけないと思うの。だって、この子は千歳以上も年の差のある両親を持っているのよ。しっかり自分を持っていないと、この子は生きていけないんじゃないかしら?」

「それは関係ないだろう?」

「あら、そうかしら?この今という時代で生きていくためには、相当な精神力がないと」
 そう言われると、私には何も返す言葉がなかった。

「ナオミ、君がそんなに言い張るならば、この子はヨブと名付けよう」

「ありがとう。お父さん」


「お父さん、ちょっと、席を外していただけないかしら。授乳したいから」

「あぁ、すまない。わかった。ちょっと外へ出るよ」

 私はこのとき、よからぬことを考えていた。


…つづく


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山根あきら | 妄想哲学者
記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします

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