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連載小説(27)漂着ちゃん

 父親である所長との面接から1ヶ月が過ぎた。その間に何度もナオミと語り合ったが、とくに結論らしい結論には至らなかった。

 こちらから護衛官を通して、早く所長に私の意向を伝えたほうがいい、と思いつつも、「どうしたいのか?」という私の気持ちが固まらない以上、私から所長のところへ出向く理由はない。いたずらに時は過ぎていった。

「エヴァさんはどうしているかしら?」
ナオミはときどき思い出したように言った。

「どうしてるだろうね。エヴァさんのことも気になるが、マリアのことも気になる」

「そうね。あなたの娘ですし、この子の妹でもあるから」
隣りでスヤスヤ眠るヨブを見ながらナオミが独り言のようにつぶやいた。

 まだ、ヨブには私たちの言葉はわからないだろう。しかし、同じ子ども同士があったなら、言葉はなくても何か感じるものはあるだろう。今まで深く考えたことがなかったが、ヨブとマリアを会わせたいと思った。

「ナオミ、今ふと思ったんだが、ヨブをマリアに会わせたいと思うのだが…」

「あなた、今頃そんなことを思ったんですか?私はマリアちゃんが生まれたと聞いた時から、考えていましたよ。ただ、私たちはエヴァさんとは、自由に会えるわけじゃない。それに、お父様も反対なさるでしょう。どうしようもないから、私は言わなかったけど」

「となると、やはり所長に消えてもらうしかないのだが。それも忍びなくてね」

「あなたは優しい人なのよ。本当だったら、肉体を持つお父様はもうお亡くなりになっている。それを未来のあなたはAIとして永遠の命を与えた。ものすごい酷なことを言うけど、本来存在しない人が世の中を牛耳っているのは良いことでしょうか?」

「そうだね。おそらく未来の私もそれがイヤで自らの命を断とうとしたのだろう。Age3500からこの時代にやって来ても直面する問題からは、逃れられないということだね」

「そうね。自然の摂理に反しる人間の欲望が、より問題を深刻化させていますね。この時代の臓器移植や脳死の問題も、人間の技術が突きつけた倫理的かつ哲学的な問題よね。命の重さの計測なんて、金銭ではもちろん解決できませんし、ましてや倫理的に『これが正しい』なんてAIにも答えられる問題ではありませんからね」

「結局、人間にできることって、正解が何かなんて分からなくても、自ら正しいと思って下した決断を遂行することなのかな」

「そうね。それが最善の答えではなかったとしても、自らの良心にのっとって決断し実行に移せることが、人間の役割なのでしょう」

 ナオミの話をしているうちに、私はある決断を心の中でくだした。



…つづく


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