見出し画像

624字 | ジュリエット釣り

 その女は、雪のような白い肌をしていた。私は目を見張った。美しいと思った。そして、美しいと思う気持ちはすぐに、抱きたいという気持ちに変わった。

「あ、あの、はじめまして。お名前は?」

「ジュリエットですが。私を買っていただけますか?」

「『買う』とは?」

「私は娼婦です。あなたはそのつもりで私に話しかけたんでしょう?」

私は正直に言った。
「はい、というべきか、いや、というべきか。君を一目見たとき、美しいと思った。そして、次の瞬間には、君を抱きたいという気持ちになっていました」

「そうですか。それなら話は早いですね。私もあなたに抱かれたい。あなたは誰でもいいわけじゃなくて、私を抱きたいと思ってくれたんでしょう?お安くしておきますよ。私、うれしいから」

 口説き落とす手間が省けた。私とジュリエットはそのままホテルへ向かった。

 ベッドでは、ジュリエットは恋人のように振る舞った。

「すべすべしたお肌ですね。男性なのに。羨ましいです」

 そんなことを話しながら、ジュリエットは私の体を愛撫し始めた。そして、私たちは、何度も激しく結ばれた。
 あっという間に朝になった。

「そろそろお別れですね」

 ジュリエットは悲しそうに呟いた。

「おいくらかな?」
 私はひどく現実的なことを口走ってしまった。

「お代なんて。今日は要りません。とても清々しい時間でした。お代どころか、もうお釣りもいただいているような気持ちなんです。ありがとうございました」

 ジュリエットはニコッと微笑んだ。

(624文字)


こちらの企画に参加しています

「ジュリエット釣り」とは、なかなか難しいお題でした。
「ジュリエット」と言えば、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」以外に何も思いつきませんでした。
「釣り」というと「fishing」(魚釣り)が思い浮かびましたが、釣りはほとんどしたことがないので書けません。
ということで、「釣り」は「おつり」と解釈しました。
はじめて応募したのは、「涙鉛筆」でしたが、「チャリンチャリン太郎」あたりから難易度が上がっていますね。


#毎週ショートショートnote
#ジュリエット釣り
#小説
#短編小説
#秋だからやってみた
#クリエイターフェス

記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします