連載小説⑤漂着ちゃん
「どういうことです?千年以上年上だというのは?」
さっきまで老婆だった女は私を一瞥すると、伏し目がちにゆっくりと話し始めた。
「千年以上というのは、そのままの意味です。実は私にも、ここへ来たハッキリした経緯は分かりません。しかし、推定されることをこれから話しましょう」
それから、彼女は私の目を見ながら、ゆっくりと考えながら、ポツリポツリと話し始めた。
「私がこの町で発見されたのは、今から二十四、五年前のことでした。今では珍しくなくなりましたが、この町の山奥の川に漂着した女の子たちのことを町の住人は『漂着ちゃん』と呼んでいます」
「私は『漂着ちゃん』の第一号です。だから、住民の間では、聖書の人物になぞらえて『エヴァ』と呼ばれています」
「二十四、五年前に私が最初に漂着して二十年が過ぎた頃から次々と『漂着ちゃん』がこの町に流れつくようになりました。今では漂着ちゃんは50人を超えています」
私はエヴァの話に耳を傾けていたが、結論を早く知りたくて、彼女の話を遮って尋ねた。
「あなたの正体を早く教えてください。推察で構いませんから…」
「そうですよね。それが1番気になりますよね。では、分かっている限りのことをお話しましょう」
「氷室というものをご存知でしょうか?今でも残っているところがあるようですね。私たち『漂着ちゃん』は自然の氷室に閉じ込められた弥生時代の人間らしいのです」
「氷室というのは、冬にできた氷を藁などで包んで保存するという…」
「そうです、そうです。私たちが生まれた弥生時代には稲作がさかんに行われるようになっていました。そこから先は私には記憶がありませんが、私たち『漂着ちゃん』は氷室のようなところで、大量の藁に囲まれて閉じ込められてしまったのでしょう」
「なるほど。どういういきさつなのか、よくは分かりませんが、永久凍土の中のマンモスのような…」
「おそらくそうなのではないか、と推察されています。弥生時代版のタイム・カプセルのような…人為的なものなのか、自然の偶然なのか、私たちにもわかりません。地球温暖化により、私たちのカプセルがとけ出して、今になって少しずつ『漂着ちゃん』が流れ出すようになったのでしょうね」
「にわかには信じられませんが、あり得る話ですね。そうか、だから同じ日本語でありながら、現代に生きる私たちには理解できないのでしょうね」
「ただ、これは推測の粋を出ません。エヴァというこの私を、この今という時代で育ててくれた両親は….親と言っても私より千年以上あとに生まれた人ですが…私の体型は弥生時代の女性の体型とは違うようだ、と言っています。一応、DNAの型を、ごくごく内密に詳しく調べたようですが、どうやら弥生時代の人間とも、現代の人間とも異なるらしいのです」
「…とすると、『漂着ちゃん』の本当の由来は、いまだに謎だらけ、ということでしょうか」
「まったくの謎というわけではありません。ただ最近、もうひとつの、有力な仮説がささやかれるようになりました」
「それは…いったい?」
…つづく
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