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短編小説 | どうせなら...

(1)

 メタバースの世界が一般的になった。体験したみたが、どうも物足りなさを感じてしまった。こんなことを書くと何様のつもりと思われるかもしれない。しかし、体験してみて予想を越えるものではなかったから、正直に書いてみようと思う。

(2)

 そもそも、普段から三次元の世界に住んでいる。どんなにメタバースなるものがすごかったとしても、所詮三次元で起こる現象を再現したものに過ぎない。もともとある世界を人為的に作ったとしても、それは単なる現実世界の模倣に過ぎない。
 物足りなさを感じてしまった私は、どうせなら、そこでしか経験できない世界の構築することを目指した。

(3)

 とりあえず最初に取りかかった研究は、体積をもつ人間が、二次元の世界に住むためにはどうしたらよいか、ということについてだった。
 三次元の世界には、縦、横、高さの3つの座標軸がある。人間の体は基本的に、3つの座標軸に無数の点を入力すれば、一応再現することが可能だ。
 しかし、座標軸が一本減って二本になってしまうと、必ず歪みが生じてしまう。それは例えば、地球儀ならば原理的に地球のミニサイズのものを再現できるが、地図にすると、距離・面積・方角などを、すべて忠実に再現することが不可能なのと同じである。

(4)

 研究の結果、二次元の世界は、俯瞰することはできても、住むことはどうやらできそうになかった。仮に住めたとしても、その世界の中に入ってしまうと、他人を見ることができない。
 私はフラットランドの研究を諦めて、四次元の世界について研究を進めた。
 今度は二次元のときとは異なり、座標軸を減らすのではなく、一本増やすことができる。三次元の断面が二次元という平面ならば、四次元の断面は三次元の空間である。
 四次元を作るには、縦、横、高さという三本の座標軸に、何らかの余計な軸を付け加えればよい。苦労の末、私は余計な軸を一本加えることに成功した。
 それ以降の研究は、スムーズに進んだ。五次元ならば、四次元にさらに一本余計な軸を加えればよい。六次元は五次元に一本加える。それだけでよかった。

(5)

 かくして、四次元以上の空間を次々に作り出し、スイッチ一つで八次元だろうが、一万六千次元であろうが、どこへでも行くことができるデバイスを作ることに成功した。
 自分で作り上げたものとはいえ、やはり、メタバースより遥かに面白い経験ができた。どうせなら、メタバースではなく、私の作った「メチャバース」を是非、試してみていただきたい。人生観が変わることは必定である。





おしまい

フィクションです💗

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