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エイリク大陸物語①「獅子王と甲冑の騎士」

0.王都にて

 夕刻、黒馬に乗った騎士がただ一人出陣した。黒光りする甲冑は禍々しく、その下の素顔を見たものは無い。もっとも<<英雄殺し>>が王城から出ることは少ない。英雄マルスがあのように討たれてからは特に。

 また一人希望の担い手となっただろう少年が死ぬ。<<英雄殺し>> の行軍を目にした者は皆、顔も知らぬその子の為に祈った。

 しかし、行軍が目的地に近づいてくると人々の反応も変わった。今までならば王都から北進して海岸の都市群に向かったはず。それがどうやら<<英雄殺し>>は東に逸れて平原に向かっているらしい。魔術師の予言が外れたか、それとも別の任務があったのか。そんな噂が平原の羊飼い一家の耳に入ったのは長男ニコが13の誕生日を迎えた当日のことだった。


1. 黒髭

 平原に春が来た。食べ物に恵まれるこの時期は周りの皆が穏やかになる。犬の扱い程しか出来ないニコは春が好きだった。今も羊を老犬ベルに任せて昼寝している。

【続く】

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